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番外編:ユーリちゃんはがんばってるのよ!?

エピローグ:ああ、素晴らしきかなシャバ世界!

それからというもの──

──なんやかんやと1週間も冷たいメシを食べさせられたものの……

わたしはようやく、塀の外へと出てくることができました!

ああ、シャバの空気が上手いというのは本当だったのですね!

もぅ感無量です!

自由って素晴らしい!!

そう、お金がなくたって、食っちゃ寝できなくたっていいんです。

自由こそ、自由こそあれば!

そうして、いつだって頼りになる彼(あるいは彼女)さえいれば……!

留置所を晴れて出所したわたしは、下界担当官に戻されて、下界へと降り立ちました。

そうして──

──赤ちゃんの身でありながら、ティファさんに抱っこされつつ港で船の手配をしている、今日もがんばっているアオイさんを見つけて、わたしは駆け寄ります。

「──アオイさん!」

(よう、ユーリ。ようやく出所できたのか)

獄中で、改めて伝えようと思っていたその想い。

ようやく、伝えられるときが来て。

わたしは、ティファさんからアオイさんを渡してもらうと、ギュッと抱きしめて。

ついに、その一言を伝えます。

「アオイさん!」

(な、なんだよ……)

ほんのり頬を赤らめるアオイさん。

わたしは、満面の笑みでいいました。

「よくもわたしを投獄してくれましたね!?」

(ぐえぇ……お、おま、お前えぇぇ……!)

 

ちょっぴりな照れ隠しですよ? もちろん!

 

(おしまい♪)

つい昨日までは、可愛いメイドさんたちとイチャイチャの日々だったのに。

なぜか今日は、留置所の寒々しい牢屋に押し込められているわたし。

いったい、なんで?

わたしはただ単に、普通よりちょっといい暮らしを求めていただけの、そんなささやかな願いを抱いていただけの、いたいけな女の子なのに。

しかも、しかもですよ?

エレシュ係長に捕まって、下界担当官としての資格と魔法とその他諸々を強制剥奪されて、その腹いせに、著作権違反verのほうの変身呪文を教えてあげましたがそれはともかく、いったいどうしてわたしが捕まらなくちゃならないのかを聞いてみれば……

「あなた、本当に自覚がないんですか?」

下界に降りるだけだというのに、なぜか、女神風コスプレでキメてらっしゃるエレシュ係長はいってきました。

「分からないのなら……もう、いいです……とにかくあなたは、良くて終身刑、悪くて地獄刑だと思いますよ……さすがにもう、わたしもかばいきれませんから……」

そんな感じに、たいそう残念な面持ちでおっしゃるのです。

……はて?

地獄刑というのは、アオイさんの世界でいうところの死刑に相当するというか、死刑のほうがまだぜんぜん生ぬるいというかの刑なのですが。

普通よりちょっといい暮らしを求めていただけのわたしに、いったいなんでそんな重刑が科せられるというのでしょう?

はっはっはっ。

そんな、あり得るわけないじゃないですかー。

エレシュ係長は、きっと、ヤヴァイ呪文を教え込まれた仕返しに、ちょっぴりお茶目な冗談をいっているだけですよね?

……まぁ、エレシュ係長の冗談なんて聞いたことありませんが、だからこそセンスないですよ?

もうほんと、笑えませんから。地獄刑だなんで。

あり得るわけないじゃないですか〜……

ほんとにまったく〜……

いやほんとに……

「ほんとなんで!?」

わたしは発作的に牢屋の鉄格子をガンガン叩いて「出して!? 出してよ!!」と叫びますがされも取り合ってくれません!

「どうしてわたしがこんな目に!? おかしいでしょ! そりゃあ多少道理に反する行いはあったかもですが地獄刑だなんてあり得ないでしょ!?」

いったいどのくらい叫んでいたでしょうか?

もはや声も枯れて、わたしはただただ泣きじゃくるしかなくなったころ……

一人の警官がやってきて、いいました。

「8791番。出なさい」

わたしは手錠をはめられて、スゴスゴと牢屋から引きずり出され、そうして連れて行かれたところは面会室でした。

ですが面会室には誰もいません。

その代わり、透明アクリル板越しにスマホが一台設置されてました。

……ナニこれ?

わたしが呆然としていると、そのスマホのスピーカーから、先ほど話していたばかりなのに妙に懐かしい声が聞こえてきました。

『あー、もしもし?』

「アオイさん!? アオイさんですか!?」

少しでもその声を聞き取るべくアクリル板に張り付いて、通声穴に向かって声を張り上げました。

『よぉ……いまドコ?』

「牢屋です! 牢屋の中ですよ!? 助けてください助けてください! 地獄はイヤーーーー!」

『なんというか……まぁ……ご愁傷さま?』

「そんな冷たい!? 助けてくださいよ!? わたしとアオイさんの仲じゃ──」

わたしが必死に懇願しているというのに、横で控えていた警官が割って入ってきました。

「おい、8791番。もう通話が切れているぞ」

「そ……そんな!? まさかアオイさん、わたしを見捨てる気ですか!?」

「さぁ、戻るぞ」

「イヤーーー! 地獄はイヤーーー!!」

わたしのその悲痛な叫びに、まるで反応するかのように。

アクリル板越しのスマホは着信音を上げました。

「鳴ってる! スマホ、鳴ってるから!」

警官はため息をつきながらも通話してくれました。

まるで、天使の声のようなアオイさんの声が聞こえてきます……!

『おい、ユーリ』

「はい!」

『お前、もう本当に裏切らないと誓うか?』

「もちろんですアオイさん!」

『オレのいうことちゃんと聞いて、魔法の修行も一生懸命励んで、出し惜しみせず変身魔法を使うと誓うか?』

「当たり前じゃないですかアオイさん!!」

『………………ハァ。まったく、調子がいいんだから』

「助けてくれますよねアオイさん!?」

『なるべく善処するよ』

「それってやらないヒトの台詞ですが!?」

『分かった、分かったから。ただ複雑な手続きが必要みたいだから、数日そこで反省してろよ?』

「数日したら助かるんですね!?」

『……少なくとも、地獄刑とかいうのは回避してやるから』

「期待してますよアオイさん!? わたし、もうあなただけが頼りなんです! 何でもいうこと聞きますから! 一生付いていきますから! なんなら結婚しますから!!」

わたしのプロポーズに『それはいい』なんてつれない一言を残し、アオイさんは通話を切ったのでした。

ひどひ……

 

(おまけにつづく)

セドリックさんちでの1週間、わたしは、メイドさん達にかしずかれながら幸福の絶頂ともいえるひとときを過ごし──

──ついに運命を決する日を迎えたのでした。

そう、アオイさんとセドリックさんの商談の日を。

いえ本当は、そういう些末な話はセドリックさんにお任せしたかったんですけどね? なんかアオイさんが、商談の条件にわたしの同席を強く求めてきたそうで。

セドリックさんもとくに断る理由がなかったのと、わたしも、アオイさんから目を離すと何をしでかされるか分からず不安でもあったので、渋々ながら同席することにしました。

そうしてわたしは、応接間でアオイさんと対峙することになります。

う、うわー……お、怒ってる。怒ってますよ……?

赤ちゃんの身空だというのに、愛らしいはずのくりっくりなその瞳をめっちゃ尖らせてますよ?

別にわたし、悪いことしてないのにな〜?

ただちょっと、食っちゃ寝できる生活を入手しただけなのにな〜〜〜?

できるだけアオイさんと目を合わせないようにしていると、いよいよ商談は始まりました。

アオイさんとセドリックさんが小難しい交渉をしばらく続け、わたしは眠気を感じ始めたころ──

──その台詞が耳に飛び込んできます。

「君たちには十分な給金を出すつもりだ。それこそ、一生かかっても使い切れないほどの給金をだ」

「ほんとですか!?」

わたしは前のめりでセドリックさんに詰め寄ります。

「そしたらもう、わたしこの異世界のコになる! ココに住み着いて、一生遊んで暮らします!!」

「異世界……? なんのことか知らんが屋敷でも欲しいのか?」

「ええそうです! 巨額のお金と安定した住まいを! 屋敷もください!」

「別に構わんぞ」

「やたーーー! もうコレで働かずにすみます! なんということでしょう!?」

ほ、ほんと……本当になんということでしょう!?

セドリックさんちの来賓になって衣食住が足りたのはよかったのですが、わたし自身はお金持ってないし、遊びに繰り出すこともできなかったんですよね。

もちろん、可愛いメイドさん達にチヤホヤされる生活も悪くはないのですが、たまにはお外で気晴らししたいし、自分だけの住まいがあるのに越したことはないし、そうしたらセドリックさんちのメイドさんでお気に入りのコも数人分けてもらおう!

そうしてわたしは、左うちわで悠々自適な生活を満喫しまくりですよ!?

まさか……まさかの、です!

いまこのタイミングで、ついになんたる大どんでん返しのスーパーラッキー!

わたし、どうしちゃったの!?

もしかして先週くらいに、大殺界的な運気から抜け出しちゃったの!?

と、いうわけで。

バラ色花吹雪で真っ赤に染まるわたしの頭、だったのですが。

そこに、まるで鋭利なナイフを突き刺してくるかのような、そんな冷め切った声音で。

アオイさんの念話は聞こえてきました。

(お前な。あと数年で滅びるこの世界に居着いてどうすんだよ……)

…………。

……………………。

…………………………………………。

「あーーー!? そ、そ、そぉでしたぁぁぁ!?」

わたしの絶叫が応接間いっぱいに反射します。

あわ……

あわ……

あわわわわ……

わたしは頭を抱えて、ソファに深く深く沈みます。

そうでした……そうでしたよ!?

せっかく手に入れた天国のような生活も、わずか数年で破綻してしまうなんて!?

これでは、メイドさんたちとキャッキャウフフの生活も、毎日が高級食材の暮らしも、お掃除をしなくていいトキメキも、何もかもがなくなっちゃうじゃないですか!

そもそも!

この世界はあと数年で滅びてしまうからこそ、わたしたちは来たんでしたよ!?

だというのに!

だというのにいったいアオイさんは何をしてるんですか!?

わたしが抗議の声を上げようとした、そのときでした。

背後の衛兵達が、一斉に抜刀したのは。

「ヒッ」

ズラリと並んでイヤァな光沢を放つ抜き身の刀身を見て、わたしは思わず悲鳴を上げます。

なんか、アオイさんが余裕綽々でセドリックさんと話してますが、そんな場合でないのでは!?

いまアナタはただの赤ん坊なんですよ!?

「アオイさん!? ここはいったん条件を呑みましょう! とりあえず数年は食っちゃ寝できます!!」

わたしのその台詞に、アオイさんはあからさまに呆れた表情を返してきます。

赤ちゃんなのに器用ですね!?

「い、いやあの、その間に別の対策を立てましょうって意味ですよ?」

ですがわたしの利口な忠告をアオイさんはガン無視し、セドリックさんの提案を突っぱねてしまいます!

背後で刀剣構えた衛兵達が、わたしたちを取り囲んで剣先を突きつけてきましたよ!?

「うひーーー!? あ、あ、アオイさん!? なんてことしてくれたんですか!?」

(あ、いっとくけど。お前は助けないからな?)

「はいィ!?」

アオイさんの無慈悲なその台詞に、わたしは、目玉が飛び出さんばかりに目を見開きます!

(当たり前だろ? お前はセドリックに寝返ったんだから。あとはそっちでなんとかしろよ)

「交渉を決裂させたのはアオイさんですよね!?」

(知るかそんなこと。そもそも勝算あるから、無茶な交渉を仕向けたんだろうが)

「えええ!? こうなることは分かってたんですか!?」

(当たり前だ。そもそも、オレの頭脳が凄まじいのはお前が一番知ってるだろーが)

「ああ! 分かった! こうやってわたしを追い詰めて変身魔法を使わせる気なんでしょう!?」

そうだ! そうに決まってます!

わたしを追い詰めたら変身魔法を使わざるを得ない、だからこんな無茶な交渉を仕掛けているに決まっています!!

(そんな気はまったくない)

「う、嘘だ! 絶対に変身魔法を使わせる気だ!」

「オイ、貴様ら! 自分の状況が分かっているのか!? 何を仲間割れしとる!」

セドリックさんの怒号にわたしは首をすくめますが、アオイさんは余裕の態度でいいました。

(なぁセドリックさん。そのユーリってのは、テレポート魔法しか使えないんだよ)

んなぁ!?

アオイさんの、その信じられない台詞に、わたしはアゴが外れるかというほど口を開けます!

(だがテレポート魔法だけは使える。つまり、この場から逃げられるのはユーリだけだし、テレポート魔法が使えるから学園都市にでも王立府にでもどこへでも一瞬で駆け込める)

バカな!?

そ、そ、そんなこと話したら、わたしが一方的に狙われちゃうじゃないですか!?

わたし、一時的にしろセドリックさん側につく形になっちゃいましたけど、でもでも、アオイさんが赤ちゃんでその姿だと魔法も使えないとか、そんな致命的なことは一切話してないじゃないですか!!

なのにアオイさんてば、わたしの弱点をペラペラと!?

しかもしかも!

尾ひれはひれまで付けて、あることないことをしゃあしゃあと!!

「ナニいってんですかアオイさん!? わたしが行けるのは冥界だけって知ってるでしょ!? 学園都市に行けるなら苦労しませんが!?」

わたしの猛烈な抗議もアオイさんはスルーすると、さらに致命的な台詞を吐きやがります……!

(そしてコイツは、自動車開発にはまっっったく関わっていないし役にも立たない)

ジャキジャキジャキ──!

「ひぃ〜〜〜〜〜〜!」

抜き身の刀身の、その切っ先が一斉にわたしへと向きましたよ!?

下腹部あたりから爆発する恐怖に、わたしの足腰がガクブルで震え出します!

「……テレポート魔法まで使える魔道士が、それ以外の魔法を使えないだと? にわかには信じられないが……」

(おいセドリック。この一週間、お前はいったい何を見てきた? この女が、そんなに優秀だと思うのか?)

「なるほど、それもそうだ」

「納得しないでくださいよ!?」

わたしの悲鳴は誰も聞いてくれず、セドリックさんは言い放ちます!

「おい、この女に逃げられては面倒だ! ひと思いにやってしまえ!」

鬼だ!? ここに人の姿を借りた鬼がいますョ!?

「ハッ!」

人殺し、ダメ! ゼッタイ!!

「や、やられてたまるかーーー!」

わたしは手早く帰還宣言文を唱えると、体をパァっと発光させました!

へへん! どうです!

わたしにはこの帰還能力があるんですからね!

もうアオイさんなんて知りませんよ!

わたしを売った恨み、冥界に来てから後悔するがいい! アハハハハハ──

「──ハハハハハァ!」

そしてわたしは、高笑いをしながら冥界に無事帰還し、その転送ドームに姿を現すと。

わたしの目の前には──

──なぜか、エレシュ係長以下大勢の警官たちが。

そうしてエレシュ係長は宣いました。

「確保ォーーーー!」

「うっぎゃーーー! エレシュ係長!? どうしてココに!?」

エレシュ係長以下大勢の警官達に飛びかかられて、もみくちゃにされながらわたしは絶叫します!

「アオイさんに聞かされていましたからね! あなたがこちらにくるのを網を張って待ち構えていたというわけです! 冥界のセキュリティなめんじゃねーぞ!?」

やばひ!

このヒト、完全にキレてる!!

「アァ! やめて助けて!! いぢめないで!?」

 

こうして……

わたしは冥界にて……

ついにお縄となったのでした……

 

(ユーリの大冒険完結編につづく!)

呑みに繰り出したと思ったら、気づけばベッドの中でした。

あれ……? 確か黒づくめさんと呑みに行って、なんか、アオイさん達と会った気がしましたが……ハテ?

「う〜、アタマ痛い……」

時計を見ると、昼過ぎを回った時刻。いつ帰ってきたのかも覚えていませんが、どうやらわたし、丸一日熟睡していたようです。

まぁそりゃあ一昨日から昨日にかけては徹夜のあげく飲み続けて、しかも街に屋敷に冥界にと走り回りましたからねぇ。体力気力ともに底を尽きるというものです。

「ふふ……ふふふのふ……」

でもわたしは、思わず笑みを零します。体のけだるさも、スポーツのあとの心地よさのようです。

「二日酔いでもだいじょーぶなんですよ〜。何しろわたし、ココのうちの子ですから!」

どんなに寝ていても怒られない。

どんなに呑んでも翌日に仕事ない。

それでいて、衣食住にはまったく困らない……!

そう──今やわたしは、安心と自由を完膚なきまでに手に入れた勝ち組なのです!

「うひょ〜〜〜! 素晴らしい、素晴らしいですョ!!」

そうしてわたしはスキップしながら、疲れた体を癒やすべく、貴賓室に備え付けのバスルームに入ります。

バスルームには、いつでもちゃんと湯が張ってあるのが素晴らしい……!

わたしは衣服をぽいぽいっと脱ぐと、湯船に身を浸けたのでした。

「はぁ〜〜〜、きもちイイ……」

わたしは全身リラックスして、息を長く長く吐き出します。

思えば、アオイさんと出会ってからというもの苦労の連続でしたね(涙)。

せっかくわたしが、キリ番ゲット特典を引き当ててあげたというのに、些細な間違いに難癖を付けられて、一歩間違えばご臨終の日々でしたからね。

まったく。まったくもうアオイさんったら。

傍若無人の自己チュー美少女にも程があるでしょう?

でも、そんなツラくてツラい日々とも、これでお別れなのです。

なにせわたし、この大富豪さんちの娘になったのですから!

まぁ正確には来賓ですけど、もう娘のようなものですから!!

「あは〜〜〜、幸せ……」

ふと横を見ると、バスタブの縁にベルが置かれています。

これってもしかして、メイドさんとか呼べるアレですかね……!?

そうしてわたしは興味本位でチリリ〜ンと慣らしました。

すると間もなく、バスルームの向こうからメイドさんの声が聞こえました……!

「ユーリ様、お呼びでしょうか?」

おおう!?

な、なんという贅沢!

なんという貴族階級!!

この世界の貴族様は、みんな、こんな感じでメイドさんを侍らしているというのでしょうか!?

アオイさんの世界でコレやったら炎上必至ですョ?

「んん〜、そうですね。入浴剤なんてありますかね? あ、それと着替えもお願いしますョ」

「かしこまりました。少々お待ちください」

ほどなくメイドさんが入浴剤を持ってきて、バスルームに入ってきました。

「お持ちしました」

おおおう!

「我こそがメイドである」と全力主張するかのようなヒラッヒラのエプロンドレスがよく似合う美少女じゃありませんか!

「ありがとう。あなた、お名前は?」

「ウィーリカと申します」

「おいくつ?」

「今年で17です」

17歳かぁ。うーん、ギリギリアウトな年齢ですが、でも世界が違いますからね?

「一緒にお風呂、入りましょう?」

「え……でも……そ、そんな……」

「よいではないですか。よいではないですか!」

ためらうウィーリカちゃんの手を、わたしはちょっと強引にひっぱって、彼女のエプロンドレスの結び紐に手を伸ばし、そうして勢いよく──(以下自主規制)

 

とまぁそんな感じでわたしは、きっと、もう生涯に味わうことのないであろう至福の生活を満喫するのでした。

 

(ウィーリカちゃんがどうなったのかは……つづかない)

「分かった……貴様の要求は分かったから……とりあえず、わたしの来賓扱いでどうだ……?」

応接間の窓からは朝日が差し込み、小鳥のさえずりがチュンチュンと聞こえてきます。

それは地獄の底に一筋の光が差し込むかのような、まさにそういう類いの感動的なワンシーンでした。

ですがわたしは、あえて問い返します。

「来賓といっても、いつまで来賓でいられると?」

「ずっと……ずっとでいいから! もう勘弁してくれ!」

神出鬼没のわたしが夜通し行ったプレゼンで、セドリックさんはついに認めてくれたようです……!

「はい、喜んでずっと来賓になりましょう!」

「分かったならわたしはもう寝る!」

「あ、でも契約書とかに書いておかないと、いつ裏切られるか──」

「分かった! 分かったから! いますぐ秘書を呼んで手続きするから!」

とにもかくにもわたしは、自分の熱意を伝えるために、冥界と下界を何度も行ったり来たりしながら一晩かけてセドリックさんをきょうはk──いえ説得したのでした。

その甲斐あって、わたしはセドリック家の来賓として、もてなされることになったのです!

セドリックさんと入れ替わりで応接間に入ってきた秘書さんに、わたしは尋ねます。

「この契約書、『甲乙双方の申し出がない場合、1年毎の自動更新とする』ってあるじゃないですか。コレ、『甲の申し出があっても、乙の申し出がない場合、100年毎の自動更新とする』になりませんかね?」

もちろんこれは、正式な契約ですからお仕事なのです。

では何のお仕事なのかといえば、まぁ平たくいえば用心棒のようなものでしょう。

戦闘能力のないわたしがなぜ用心棒ができるのかというと……ふふふのふ〜♪

実ワ、なのですョ。

頭がすこぶるよろしいわたしは、この一連の誘拐騒動で気づいてしまったのですョ。

そう──わたしが、この天才ユーリちゃんこそが、アオイさんパーティーの肝心要な存在であることに!!

なぜってアナタ、そりゃわたしがいなくちゃアオイさんは変身できませんから、いくらアオイさんの知能が高くても、戦闘能力ゼロの単なる赤ちゃん。

物騒極まりないこの異世界では、理屈をこねたところで結局は戦力なのです。

その戦力を発揮するためには、わたしが、このユーリちゃんこそが必要だったのですョ!

しかも、しかもです。

この天才ユーリちゃん、どこへなりとも逃げ放題、なのです。

つまりわたしってば、自分は極めて安全でありながら、アオイさんの弱みも握っているというコト。まさに……まさに食物連鎖的ヒエラルキーの頂点に君臨しているわけなのですョ!!

くっくっく……

見てなさいよ、アオイさん?

今までさんざん、吸われたり叩かれたり、吸われたり炙られたり、吸われたりたかられたり、吸われたり沈められたりの恨み……いまこそ、いまっこそココで晴らさでおくべきか!?(いや、晴らさなければならない!!)

「くくく……くっくっく……」

「お前……頭大丈夫か……?」

あてがわれた豪華な貴賓室を前にして喜びを噛みしめていると、生活必需品を運んでくれてた黒づくめAさんが呆れた声音で聞いてきます。

っていうかこの人、もう屋敷の中だというのになんでまだ全身黒づくめなんですかね……?

まぁそんな些事には構わず、わたしはAさんに答えます。

「わたしの、あまりの策士ぶりに思わず声が漏れてしまっただけですョ……」

「セドリック様がウンザリするまで付け回してただけだと思うが」

「そのことではないのです! 天才はいつだって理解されないのです!!」

もういいです。こんな凡人は放っておきましょう。

これでわたしは、一生安泰な生活をゲットして、かつ、アオイさんに復讐もできるのですからね!

「よぉし! 黒づくめさん! 前祝いにパァっと飲みに行きますよ!」

「いや、オレには公務が……」

「わたしが、好き勝手に街に出掛けてもいいんですか〜? まぁテレポート(もどき)があれば、好き勝手に出歩けますけどね〜?」

「くっ! わ、分かった、分かったよ!」

こうしてわたしは、徹夜の疲れも吹っ飛ばす勢いで酒場へと繰り出したのでした!

 

(そろそろ終わるかと思ったらぜんぜん終わらなくてまだつづく)

「そこな! そこなお二人ちょっと待って!」

「うおっ!? なんだいきなり!」

わたしは冥界から下界に戻ってくると、セドリックの屋敷前の茂みに身を潜めていました。

そうして、肩をすぼめて屋敷に帰ろうとしていた黒づくめさんの二人組を呼び止めます。

「あなた方は、わたしを攫った人ですよね!?」

「な……お、お前!? どうしてここに!!」

逃げたはずのわたしが屋敷の前で待ち構えていたわけですから、そりゃ驚くでしょう。でもわたしには、この二人に構っている時間はありません!

「お願いです! わたしをココで養ってください!」

「何をいって入るんだお前は!?」

顔までスッポリ黒づくめなのでよく分かりませんが、おそらく目を白黒させているであろうその一人に、わたしは泣きマn──もといガチ泣きしながらすがりつきました。

「だってだって! わたしもう仕事クビなるし! アオイさんには奴隷のように扱き使われるし! オマケにアウローラちゃんは玉の輿なのに面倒見てくれないし!! 毎日毎晩、枯れるまで生気を吸われ続ける日々なんですョ!? だったらもういっそ、お金持ちな領主様の妾……はイヤなので養子になって、末永く養って頂こうと──」

「ナニを分けの分からんことを言っている!?」

「おい、いいから早く捕らえろ!」

わたしの真摯な訴えにもかかわらず黒づくめの二人は、他の衛兵まで呼び出してわたしに剣先を向けてきます。

「ひ〜〜〜! て、抵抗なんてしませんョ!? だからその剣はしまってください!」

「一度逃亡を謀った身で何をいうか! だが大人しくしていれば危害は加えん」

「わ、分かりました! 分かりましたから〜〜〜!」

わたしは唯々諾々に両手を挙げて見せます。すると衛兵達がじりじり詰め寄ってきて、やがてわたしの両手に縄を巻き始めました。

「こ、拘束プレイですか!?」

「人聞きの悪いことをいうな!?」

「危害は加えないっていったじゃないですか!?」

「逃げられないようにしているだけだ! 我慢しろ!」

「こんな、両手を縛られた状態で何をいわれても信用できません!」

そうしてわたしは、冥界帰還の宣誓文を唱えました!

衛兵達が驚愕の声を上げます。

「うわっ! こいつまた光ってる!」

「逃げる気か!? おい、逃がすな!」

衛兵達がわたしを羽交い締めにするまえに、わたしは転送を果たします。

そうして再び、見慣れた巨大ホールに戻ってきたのでした。

界港の転送係さんが、ログが映されているであろうディスプレイを見ながら首をかしげました。

「あれ? キミさっき下界に飛び立ったばかりだよね?」

「いやあの、いろいろ事情がありましてね」

「何かのトラブル?」

「まぁ……そんなところです」

ちなみに冥界に戻ってきたわたしの手首には、もう手錠はかかっていません。原則、下界の品々を冥界に持ってくることはできない決まりなのです。ただし衣服だけは例外で、もし下界の衣服に着替えていてそのまま転送したらすっぽんぽんになってしまいますから、衣服は一緒に転送されて、あとで返却処理をします。

手錠はどう考えても衣服ではありませんから、下界に置いていかれたのでしょう。必然的に手錠が外れるわけです。

ふむ、いま気づいたわけですがこの仕組みは便利ですね。

「あの、転送係さん。これから下界と冥界を何度か行き来するかもしれませんが、気にしないでくださいね?」

「ええ、まぁいいですけど……」

そうしてわたしは、界港の到着ロビーから出発ロビーに移動して出発手続きを進めます。手続きといっても、もとより下界に出向扱いになっているわたしは、係員に行き先を告げて、そこが公序良俗に反していない限りはどこへでも転送可能なのです。

例えば、スケベな男性閻魔係が、下界の女風呂への転送手続きなんてしても、よほどの理由がない限り認められないわけです。

ということでわたしは、さっきまでいた屋敷の正門前に転送申請をして、あっさり受理されます。

東京ドームほどに広い転送ドームに、数千人もの冥界人が着席します。行き先の下界はみんなバラバラですが、1つのドームで数千箇所の転送先を同時発動できるスグレモノなのです。

『ポーン……皆さま、間もなく転送致します。シートベルトをもう一度お確かめください……』

おなじみのアナウンスが流れます。毎回思うのですが、とくに飛び立つわけでもない転送ドームに、なんでシートベルトが必要なんですかね?

そんな些細な疑問を抱いていると転送時間になって、ドーム内全体が目映い光に包まれて──

──その光が消えると、わたしは真っ暗闇に包まれたセドリックさんの屋敷前に再び姿を現しました。

目が慣れるまでしばし茂みに身を潜めます。正門前の衛兵達はわたしを必死に探しているようでした。

そして目も慣れたところで、わたしは再び茂みから飛び出しました。

「ねぇ! お願いです!」

「うおっ!? お、お前! さっきソコは探したはずなのにいったい……」

「そんなことはどうでもいいんです! お願いですからわたしを養ってください!」

「………………」

黒づくめさんと衛兵達は顔を見合わせ、そうして聞いてきました。

「お前、まさかテレポート魔法が使えるのか?」

「ええまぁ。そんなところです」

「…………!!」

わたしが答えると、その場の空気が一気に張り詰めます。

……はて? なんでですかね?

黒づくめさんはいいました。

「わ、分かった……とりあえず、養子とやらの話を聞こうじゃないか。セドリック様に会わせてやるから付いてこい」

「やたーーー!」

わたしは喜び勇んで、黒づくめさんの後に続いて屋敷の中に入ります。

そうして案内されたのは、屋敷からはだいぶ距離のある建物で、さらにその建物の地下でした。

「……あのぅ……セドリックさんに会わせてくれるんじゃ……」

「もちろん会わせてやる。だが、高位の魔道士とあっては謁見の場所が限定される……ここだ」

そういって黒づくめさんが開いた扉は、どう見ても鉄格子でした。

「……あのぅ……どう見ても牢屋なんですが……」

「いいから入れ!」

わたしは不意に背中を押されて、鉄格子の向こうに押しやられます。そうして、ガッチャン!という重い音と共に施錠されてしまいます。

「ははは! 高位魔道士の癖に、頭は回らないようだな!」

「なんなんですかいったい!」

「この牢屋には、魔法阻害結界が張り巡らされている。これでもう逃げられ──」

黒づくめさんの台詞を遮って、わたしは冥界帰還の宣言文を唱えます。

「なぁ!? ば、バカな!? ここには最上位の阻害結界が──」

そんな驚愕を尻目に、わたしは冥界に帰還して、そうしてまたセドリックさんの屋敷に戻ります。

もう面倒なんで、セドリックさん本人がいるところを指定しました。

「あのぅ……お休みのところ申し訳ないのですが……」

「……う、うーん……な、なんだこんな時間に……ってかお前誰だ!?」

寝室で寝ていたセドリックさんを起こすと、彼は驚きのあまりベッドから転げおちました。

わたしが男性でセドリックさんが女性だったら、まず通らない転送申請ですねコレ。

「セドリックさん、お願いです! わたしを養ってください!」

「……は!?」

「つまりですね!? わたしを養子にしてください!」

「な、な、なんなんだ貴様は!? オイ! 誰か! 誰かいないのか! 侵入者だ、侵入者だぞぉ!」

ああもぅ!

どうして話が進まないの!?

セドリックさんが大声をあげるものだから、またぞろ衛兵たちがワラワラ現れて、わたしは冥界帰還を余儀なくされるのでした……とほほ……

 

(いきなり枕元に現れて養えとかほんと怖いけどつづく)

界港から冥界役場は、転送ポッドを使うので一瞬で辿り着きます。

役場の敷地全体は界港以上にだだっ広いので、わたしは、自分が所属している第三総括審議室の建物内に転送先を設定しました。

第三総括審議室の建物自体は、10階建ての古びた雑居ビルで大した広さもないので、エレシュ係長とすれ違ったりしないかビクビクですョ……

そうしてなんとか係長に遭遇することなく、アウローラちゃんを食堂で見つけることができたのですが──

──わたしは、そこで驚愕の事実を聞かされたのです。

「またわたしの懲戒処分が検討されている、ですって!?」

「うん。さっき、係長同士で話しているのを聞いちゃって。午後からその会議だそうよ?」

「なんで!?」

「いや、なんでっていわれても……」

「これ以上減給されたら給料なくなっちゃいますよ!?」

「減給っていうか、停職とか免職とか的な話っぽいよ?」

「どうして!?」

「いや、どうしてっていわれても……」

アウローラちゃんは、まるで他人事のようにぽやんとしながら受け答えするのみ。うう……この子、見た目は可愛いんですけど、どうにも頼りないのが玉に瑕なんですよ……

「こ、こうしちゃいられません!」

そういうと、わたしは食堂座席から勢いよく立ち上がりました。

「どうするの?」

「どうしましょう!?」

あああ……立ち上がったはいいものの、わたし、いったいどうしたらいいんでせう……

そうしてわたしは頭を抱えて席に座り直しました。そこにアウローラちゃんがいってきます。

「エレシュ係長に謝ってくれば?」

「あの係長が謝って許してくれると思ってるんですか!?」

「思ってないけどダメ元で」

「ダメ元とか!?」

わたしはますます頭を抱えます。

「もうちょっと、もうちょっと何か策はないんですか!?」

「策といわれても……あの係長相手じゃ……」

「あ、そうだ!」

わたしは、対面で座っていたアウローラちゃんの横に移動すると、彼女の両肩をガシッと掴みました。

「アウローラちゃん、そろそろ玉の輿に乗るじゃない!?」

「いや……玉の輿が目的みたいにいわないでよ……」

「でも相手は大富豪なんでしょ!?」

「大富豪ってほどでもないケド……」

「けどお金には困ってないんでしょ!?」

「ま、まぁ……たぶんそうだと……」

「ならわたしを養って!」

「……はい?」

アウローラちゃんは、そのつぶらな瞳をぱちくりさせてから首をかしげます。

「もちろん第二夫人にしてとかそういうんじゃなっくてね!? 名目はなんでもいいのよ! あ、そうだ! わたしを養子にして!!」

「………………はいぃ?」

「養子にしてくれるだけでいいから! そうしたらあとは、こっちで勝手に食っちゃ寝してるから!!」

「あのぅ……ユーリちゃん……」

アウローラちゃんは、にっこり笑って言葉を続けます。

「寝言は寝て言え?」

「ひどひ……!」

親友がこんなに困っているというのに取り付く島もありません!

「ううう……いったいどうすれば……」

お金持ちの男なんて、そうそう都合良く見繕えるはずもないし……というか男と結婚とかしたくないしできればお金持ちの美女と……って、あ!

そういって、わたしは再び勢いよく立ち上がりました。

「いるじゃないですか! お金持ちの男!!」

「……ユーリちゃん、ドタマだいじょーぶ? やっぱり一度病院に……」

「やっぱりってなんですか!?」

わたしはアウローラちゃんに言って聞かせます。

「いるんですよ、お金持ちの男が! だいぶ歳食ってるし下界ではありますが! どぉせ公務員クビになるくらいなら、いっそ、あっちの世界で養子になってやりますョ!?」

「え……? でもユーリちゃん、あなたの担当世界はあと数年で──」

「思いたったが吉日で善は急げです! アウローラちゃん、わたし下界で幸せになるね!」

「ちょ、ちょっとユーリちゃん!?」

アウローラちゃんが名残惜しそうに引き留めてきますが、それを聞いている暇はもうありません。こうしている間にもエレシュ係長に見つかって公務員資格を剥奪されてしまうかもしれませんからね!

そうなる前に異世界で養子になってしまいましょう! そうしましょう!!

こうしてわたしは、「働いたら負けである」という名言を思い出し、それを胸に刻むと冥界役場を後にしたのでした──!

 

(名言が身に染みるって感じにつづく)

わたしは、界港到着ロビーに到着するや否や、その場でへたり込みました。

「し……死ヌかと思った〜〜〜……」

すると、係の人がすかさず声をかけてきます。

「あ〜、ソコの人、止まらずに進んでくださいよ〜」

わたしは、二日酔いのようにガンガン痛む頭を押さえながらも、東京ドームほどもある転送ポートの中をよれよれと歩き出します。どうせなら、回復魔法でアルコールを完全に抜いてもらってから戻ればよかったですョ。

そうしてわたしは、第435旅客ターミナルのコンコースに出てきました。

うひゃぁ……相変わらずの混雑ぶりですね界港は。

100階分のぶち抜き天井は(っていうか天井みえない)は解放感があるものの、コンコースをせわしなく行き交う大勢の冥界人のせいで、なにかこう息苦しさを感じます。

そもそも、コンコースが広すぎて徒歩での移動が困難なので、自動運転カーゴが冥界人を荷物のように運んでいるのですが、そんな光景がせわしなさに拍車がかかるんですよねぇ。

まぁこの広さのおかげで、ほとんど待つことなく出界できるのが救いでもあるんですけども。

わたしたち冥界人が下界に出向くことは希ですが、下界はそれこそ星の数ほどあるわけで、そこに出入界するここ界港は、広大な面積が必要で、膨大な冥界人が出入りしているのです。

それもみんな公務のトラブルで行き来しているものですから、どことなく殺伐として雰囲気が、巨大な旅客ターミナルに蔓延していました。

まぁその中でも、晴れやかな顔をしている人は、トラブルを無事解決して帰界してきた人達でしょう。

わたしのようにね!

「はーもー、二日酔いでダルいわ頭痛いわ、禄に寝てないから寝不足だわで……とりあえずコーヒーでも飲も」

わたしはコンコース内にあるラウンジに立ち寄ると、一番安いコーヒーをを注文しました。

本当は、このラウンジの名物『閻魔パフェ』を食べたいところなのですが、今は金欠なのでパフェすら注文できません……(涙)

仕方が無いので、わたしはただのコーヒーにお砂糖をモリモリ入れてから(お砂糖は無料ですからね!)、甘々になったコーヒーを一口すすり、ようやく人心地つきます。

「それにしても散々な目に遭いましたよ……これからどうしましょうかね……」

いちど冥界役場に戻って異世界出向の取消を申請する……なんてのがエレシュ係長に通用すれば、こんな苦労はしてませんよねぇ。

わたしは「はぁ……」とため息をつきながらスマホを取り出そうとしたのですが、スマホがありません。

ああもぅ……スマホはアオイさんに貸しっぱなしでしたね。これではなんの情報も入ってこないし連絡も取れません。

わたしはラウンジに設置されている時計を見ます。冥界はいま午前中で、これから冥界役場に行ったらちょうどお昼時でしょうか。

「仕方が無い……いちど冥界役場に顔を出してみましょう」

そうすれば、同僚のアウローラちゃんに、エレシュ係長の様子を聞くことができるでしょう。

そう考えて、わたしは重い腰を上げたのでした。

 

(つづくと思う意志がつづかせる)

「ただの酔っ払いですね、これは」

街の魔法医院に担ぎ込まれて、回復魔法と洗浄魔法を施されているところでわたしは意識を取り戻しました。

魔法のおかげで、目眩と吐き気の不快感が徐々に軽減されていきます。ああ……これは助かりますねぇ……

「何かの持病持ちかと思えば……まったく人騒がせな!」

保健室のような小部屋には、見知らぬ男性が3人います。

そのうち2人は黒づくめなので、さっきわたしを攫った人達でしょう。わたしに回復魔法を施している白衣の男性は、耳が尖っていることからエルフのお医者さんだと思います。

「あ……あのぅ……」

意識がしっかりしてきたわたしは、徐々に現状を理解し始めました。

これはなんというか……やばひです、まぢで。

「……これからわたし……どうなるのでせう……?」

黒づくめの1人が答えました。

「これからお前は、とある場所でしばらく滞留してもらうことになる」

「そんなイヤよ!?」

それを聞き、わたしは声を張り上げます。

「どうせわたしの体が目当てなんでしょう!? この美しい顔立ちに、豊満なお胸に、それでいてくびれた腰にスラッとした長い脚をくまなく舐め回したあげく弄ぶつもりなんでしょう!?」

「人聞きの悪いことをいうな!? 我々騎士がそんな──」

「おいバカ! 身分を名乗ってどうする!!」

「人攫いが何をいったって信用できませんョ!」

「くっ……! だ、だが別に手荒なマネをしようなどとは──」

「イヤよイヤ!? そもそも男なんて虫唾が走るっていうのに、よってたかって手籠めにされるなんて──」

「だからそんなことしないっていってるだろう!?」

くっ……なんとか……なんとかしなければ!

アオイさんのことだから助けには来てくれるでしょうけれども、いまこの場で、可及的速やかにコトを運ばれては、チートのアオイさんとて間に合わないかも……ってか、アレ?

いまこの場にわたしがいたら、アオイさんはどうやって美少女に変身するのでせう?

うーんっと……できませんよね?

ということは、助けにも来られませんよね……?

………………。

………………。

………………まぢで!?

「ほんとにどうすればいいんですか!?」

「大人しくしてろよ!?」

ヤバイヤバイ、本当の本気でヤバイですョ……?

もちろんティファさんは一生懸命探してくれるでしょうけれども、でもさすがに、ハイエルフといえこの世界の法則をねじ曲げるほどの力はないし! だから救出が成功するかどうかは未知数ですし!

わたしもテレポート魔法は使えるんですが、魔力が足りなくてできないし!

え? え? え……?

わ、わたし、本当の本気でどうなっちゃうんですか……!?

「お願いです! 命と貞操と拷問と、その他諸々だけは! その辺全部ご勘弁ください!」

「だから何もしないといってるだろーが!?」

ううう……そんなこといわれたって……人を攫うような人達なんて信用できませんョ……

それもこれも、こんな物騒で野蛮な世界に出向させたエレシュ係長のせいなんですかから!

もしも、わたしの命や純潔やその他もろもろが奪われたら、労災認定どころじゃすまないんだから!!

ううう……でもでも、ほんとにそんなことになったら……イヤだよぅ……

「えーん、えーん、えーん……」

「泣くなよ!?」

あああ……こんなところでわたしの命運は尽きてしまうのでしょうか……

こんな連中に手籠めにされるくらいなら、いっそこの場で自らの命を……

そうして冥界送りになったら、エレシュ係長の枕元に立って……

………………。

………………。

………………あれ?

わたしは、ふと首をかしげてしばし沈黙しますと。

「あああああ!!」

絶叫し、その場で立ち上がります。

「なんなんだお前は!? 本当に!」

人攫い達が怒鳴りますが、そんなこと意にも介さずわたしはパチンと手を合わせました。

「そうだ! わたし、別に死ななくても冥界に戻れるんでした!!」

そうでした! そうでしたョ!

別にテレポート魔法が使えなくても、いったん冥界に戻ってからこっちの世界に来れば、この場からはいとも簡単に逃げられるのでした!

「こ、こんな裏技に気づけるなんて……わたしって、やっぱり天才ですネ……」

「お前ほんと……頭大丈夫か……?」

そうと分かれば善は急げです。

そうしてわたしは天井に向かって、冥界帰還のための声紋認証用宣言文を唱えます。

「こちら冥界閻魔府第三総括審議室、E7898の閻魔係ユーリです! 冥界への帰還を申請します!」

すると、どこからともなく機械的な音声が帰ってきました。

『声紋照合──識別完了──E7898閻魔係ユーリト認定。コレヨリ冥界ヘノ門ヲ開キマス』

そうしてわたしの体は目映い光に包まれました。

「な、なんだ!? 何が起こっている!?」

「へへーん。残念でした人攫いさん。この天才であるわたしを捕らえようだなんて、100億万年早いんですよ〜だ」

わたしは「あっかんべ〜」と言い残すと、人攫いの魔の手から華麗に逃げ出したのでした。

アオイさんの手を借りることもなく、ネ!

 

(もうちょいつづくよ?)

うえぇ……やばひ……飲み過ぎた。

わたしは、必死の思いで呪文を唱え、アルコールの匂いを消臭魔法で打ち消します。この魔法なら、口元で匂いでもかがれない限りは大丈夫なはずです。

さらに魔法で顔の赤みも隠して、千鳥足もなんとか補正します。

これでわたしが、ちょっぴり酔っ払ってしまったことには誰も気づかないハズ……!

ですが酔いの回った状態で魔法を使うと、さらに酔いが回るんです。

宿に付いた頃には、なぜか部屋がぐるんぐるんに回ってました。

なのでわたしはベッドに倒れ込むと……

………………

………………いたっ。

………………いたっ、いたっ。

も、もう、なんなんですか……人がいい気持ちで……寝ているというのに……なんか頬が痛いですョ……

(おいユーリ……いい加減起きろ! もう襲撃者に取り囲まれてるぞ)

うう……急に頭の中にアオイさんの声が……うるさいなぁ……

「むちゃむにゃ……もぅ飲めませんよぅ……」

(おいユーリ! ナニ寝言ほざいてんだ。起きろって、もう襲撃者が来てるんだって!)

「ぐー……ぐー……」

(お……お……おまえ……呑んでやがるな!? 起きろコラ!!)

………………あれ?

やばいです。

なんか知らないけど、アオイさんに呑んでいたことがバレたっぽいです。

「ふにゃぁぁぁ……いっぱいだけ……いっぱいだけだったんれすぅ……」

無理やり上体を抱え起こされて前後に振られ、わたしは目を回しながらも、いいわけ──いえいえ説明を試みます。

「らけどぉ……なんかもうギリギリまで魔力がなくなるとぉ……酔いの回るのがいじょーに早くれ……」

(つーか飲むなっつってただろーーーがぁぁぁ!!!)

うひぃ……念話で叫ぶのやめて……

「いっぱいだけ……いっぱいだけならだいじょーぶと思ってぇ……」

(何を飲んだんだよ!?)

「ウイスキーのロック」

(酔うに決まってんだろオォォォ!?)

その後もアオイさんが何かをわめいているのですが、朦朧としている意識では、もはや念話でも何をいっているのかよく分からなくなりました。

うう……明日から……明日から本気出すから……だから今はもう寝かせて……

なぜか部屋の中で怒号とか金属音とか聞こえますが、そんな騒音も今では心地よい子守歌のように聞こえて……

……来るはずがない。

ちょっと!?

人が寝ようとしているのに、いったい何をしているのですか!?

わたしは文句をいうべく上体を起こします──と。

黒づくめに覆面をした謎の男二人と目が合いました。

ってかダレ!?

「もうコイツでいい!」

いうやいなや、わたしは黒づくめの一人に抱えられると、あっという間に窓の外にその身を躍らせ……ってか落ちる落ちる!

「あ〜れ〜〜〜〜〜〜!」

わたしが悲鳴をあげてるのにも関わらず、誰も助けに来てくれませんョ!?

こんなときのチートだというのに、アオイさんは何をしてるんですか!

わたしが攫われたら変身魔法が使えないってこと、分かってないんですか!?

………………あれ?

なんか、おかしいな??

ですが襲ってくるその激しい衝撃に思考力を奪われます。

どうやらわたしは、見知らぬ男に背負われて、その男は全力疾走しているようなのですが、酔っ払っている身としてはその激しい上下運動は堪える……堪えるよ……いやほんと、やばひ……やばひですよ……?

「も……もぅだめ……」

それが、わたしの発した最後の言葉でした。

「うわ!? なんだこいつ! 吐きやがったぞ!」

「ぎゃあ!? オレの背中で吐くんじゃない!!」

そうしてわたしの意識は昇天したのでした……

 

(つづいとけ)

その酒場の中は、喧騒とお酒の匂いで充満してました。

うひゃ〜〜〜! 久しぶりの酒場ですよ!

思えばこちらの世界に来てからというもの、アルコールの一滴も呑んでいないじゃないですか。

別にわたし、三度のご飯よりお酒が好き、というわけではないですけど、冥界にいた頃は同僚のアウローラちゃんと週4〜5回は飲みにいってましたからねー。

そうしてよく、エレシュ係長のダメ出しをしてあげたものです。もちろん本人は同席していませんが。

だというのに!

異世界に飛ばされる直前の飲み会で、アウローラちゃんてば寿退社するだなんていい出す始末!

しかもそのお相手と来たら、どこぞのベンチャー社長で資産数百億を持ってるというのですよ!?

なんで!?

ただの地方公務員のわたしたちが、どうしてそんなシャチョーと知り合ったのですか!?

本人からは「バーで飲んでたら声をかけられて」なんてのろけを聞かされましたが、わたしだってバーに行ってるのに、誰一人声をかけてきませんよ!?

つまりバーでナンパされるはずがないんです!

アウローラちゃんは絶対何かをかくしていますョ!?

ううう……アウローラちゃんはこれからの余生ずっと食っちゃ寝だというのに、どうしてわたしはこんな危険地帯で右往左往して魔力を搾り取られなくちゃいけないんですか……

こんなん、飲まなくちゃやってられませんよ!

この港町に着いてからというもの、ドン底の魔力を回復するため寝っぱなしで、ようやく魔力が回復したかと思ったら、うさんくさいおっさんとの交渉に付き合わされる始末。

せっかくの異世界だというのに観光する暇も、美味しいモノを食べる暇もありゃしません。

だというのに「今日は飲むふりだけでアルコールは絶対飲むな」とアオイさんがいうんですよ?

相変わらずの横暴っぷりですよ!

もー、こっちとしては飲まなくちゃやっていられないというのにぃ……

しかもこんな、ウイスキーグラスにウーロン茶入れられたら、まさに蛇の生殺しじゃないですかぁ……

………………まぁ一杯くらい、いいんじゃね?

ここまでの道中も、わたし、変身魔法使いまくってすごく活躍したし。

いわば、自分へのご褒美!

それにそんな、ぐでんぐでんになるまで呑みたいなんて思ってませんしね。

そもそも酒は百薬の長なんです。適度に呑めば魔力もぐいぐい回復ってなものですよ!

そうしてわたしは、口元をちょっとほころばせながら席を立ちました。

「あ〜、ちょっとお手洗いですよ」

そういって、お手洗いに行くフリをしてすかさず物陰に隠れます。

「あ、ちょっとちょっと、そこの店員さん、ちょっとこっちに」

「はい、なんですか?」

「わたし、あそこのテーブル席なんですが、ウイスキーを一杯持ってきてください」

「え? でもお連れさんに、今日はぜんぶソフトドリンクでとお願いされてますが……」

「いいのいいの、一杯だけ、一杯だけだから。あ、それと、伝票にはウイスキーじゃなくてウーロン茶って書いてね? もちろんウイスキーの価格でいいから」

「は、はぁ……? まぁ、分かりました」

その後数分で、待望のウイスキーが運ばれてきました! うひょ〜〜〜!

チラリとアオイさんを盗み見しますが、なんか、男性客に言い寄られてわたしからは注意が外れてますね。

ティファさんとクラハちゃんも見てみましたが……この二人も男性客が言い寄ってきてますね。

……………………わたしは、当たりをキョロキョロ見渡します。

男性客は、誰もわたしに目を合わせようとはしません。

なんでよ!?

(くそーーー!? いいもん、いいもん! こうなったらヤケ酒だもん!!)

わたしはウイスキーのロックをカッとあおりました。

ッくはーーー! ひっさびさのお酒が五臓六腑に染み渡ります!

そうしてわたしは、また席を立ちました。

男どもにナンパされているアオイさんたちは、わたしに見向きもしません。そうしてわたしは、またトイレに行くフリをして物陰に隠れました。

「店員さん、そこな店員さん……!」

「は、はぁ? なんですか?」

「あのお酒飲み終わったら、またウイスキーもってきて!」

「え? さっき一杯だけって……」

「いいの! ウイスキーの一杯や二杯で、わたし酔ったりしないから! とにかく、飲み終わったらどんどんウイスキーを持ってきてね!」

ふんだ!

アウローラちゃんといい、アオイさんたちといい、この店の男どもといい!

みんなわたしをのけ者にして!

今日は、ひっさびさにがっつり呑みまくってやるんだからーーー!

(つづこう)

エルフの村を出てからというもの、わたしは、来る日も来る日も魔力を吸われる日々を送ります。

なんか、魔物が襲撃してくる度に変身魔法を強いられるのです。それはもう強制的に!

こんなん、たまったもんじゃないですよ!?

それはまさに奴隷の身にやつした薄幸の美女! 地獄といっても過言ではない毎日!!

魔力が枯渇したところで別に痛くも痒くもないですけど、とにかくダルいのです。

さらに、ゴトゴトと揺れる馬車なものですから、すっかり馬車酔いしてしまい気持ち悪いのなんの……

そんなわけで、わたしは少しでも体力気力魔力を回復しなければならない超重要な立場上、馬車の中で横たわる日々なのでした。

なんか夜になると、このキャラバンで知り合ったクラハちゃんとアオイさんが小難しい話をしていたり、わたしのスマホ使いたい放題で何かを書いたりしていますが、そこはすべてスルーなのです。

何しろ、魔力を吸われすぎて大変なのですからねわたしは!

「うぅ〜。ダルい。気持ち悪い」

その晩も、わたしは酷使された肉体と精神に悲鳴を上げると、アオイさんは、なぜか呆れたまなざしを向けてきます。いまは、クラハちゃんがこの馬車に来ているので美少女の姿です。

「お前は……馬車の中で寝てるだけだろーが」

「だれのせいで……わたしがこんなに……疲れ切ってると思ってるんですかぁ」

「お前が、年齢性別その他諸々を間違ったせいだろ」

責任転嫁も甚だしい!

ですがわたしは、もはや言い返す気力もなく、涙目を作ってティファさんにすがりよります。

「うう……ティファさん……アオイさんがひどいんです……」

「うんうん、よしよし。ユーリちゃんはがんばってるよね」

「なぁティファ姉。ユーリをあんまり甘やかすなよ」

「まぁまぁアオイちゃん。ユーリちゃんががんばっているのは事実なんだし。今もね」

さすがティファさん。よく分かってらっしゃるのです。

アオイさんが美少女としてクラハさんとお話できているのも、みんな、わたしが変身魔法を使っているからなわけで、そのありがたみを、アオイさんはもっと噛みしめるべきなんですよ、まったく。

もういいです。いくら見た目麗しくてもアオイさんなんて嫌いです。

それにティファさんも息を呑むほどの美貌ですし。じゅるり。

「ティファさぁん。今日もアレ、お願いしますぅ」

「ええ、いいですよ」

わたしがティファさんの前にうつ伏せになると、ティファさんがマッサージを始めてくれます。

肩から首筋、肩甲骨から徐々に全身へと、今日も優しくもしっかりと筋肉を剥がしてくれます。くぅ〜〜〜キク!

ティファさんの細い指先のいったいどこにそんな力があるのか。あるいは魔法でも使っているのか。とにかく絶妙な力加減!

そうしてイタ気持ちよさが全身に広がっていきます。疲れた体には染み渡りますねぇ。

「うはぁぁぁ……いいですよ、いい……あっ……そこそこ!」

「おいユーリ。ミーティング中なんだから変な声だすな」

「お外でミーティングすればいいじゃないですかぁ」

そちらを見ると、アオイさんはご立腹のようすですが、クラハちゃんはなんかちょっと頬を赤らめていますね、何でだろ?

「あハッ! そこそこ!」

「お前なぁ……ティファだって魔力供給で、お前以上に疲れてるんだぞ?」

「まぁまぁアオイちゃん。わたしならまだ大丈夫ですから」

確かに、ティファさんからの魔力はすんごいですけど、変身魔法を使っているのはわたしなんですからね。

このわたしが使い物にならなくちゃ始まらないんですから。

「ああ! いい、ソコ、ソコです! もちょっと強く……うひ〜!」

ティファさん、もうサイコー!

これで人妻なのが本当に惜しいですが、そうでなかったら、器量よし性格良し面倒見良しですから、もう結婚して欲しいですョ!

あ、そだ。

「わたしぃ、もうティファさんちの娘になるぅ〜」

「あらあら。わたしとしては大歓迎ですよ?」

「お前なぁ……」

うふふ〜。じゃあもうティファさんちの子になろう。

そういって、わたしはティファさんの太ももに顔を埋めます。

ああ……いい匂い……

「じゃあ……今日からわたし……ティファさんの子……」

なんか、頭のてっぺんからたますぃがすぃ〜っと抜けていくような。そんな心地よさを覚えてわたしの気が遠くなります。

「だぁぁぁぁ! おいユーリ! 寝るなバカ!」

「ぐふっ!」

せっかくの心地よさだったというのに、アオイさんに無理やり起こされてわたしは呻き声を上げました。

「もぉ……なんなんですぁ……人がせっかく気持ちよく……寝ようと……」

「ああもう!? いってるそばから! クラハすまない! 今日はこの辺で、続きはまた明日ってことでいいかな? い、いやちょっとね、ユーリが寝るとまずいっていうか──」

アオイさんの、そんな言い訳じみた台詞を子守歌代わりにしながら、その日のわたしは眠りにつくのでした。

まったく……睡眠も好きに取らせてくれないなんて……ほんとにどうにも……地獄のような環境ですョ──

 

(つづいた)

アオイさんの猛特訓の名を借りたいぢめを受けた後。

わたしは引きこもりになりました。

(おいユーリ! いい加減出てこいよ! 魔力だってもう完全回復してるだろ?)

アオイさんが、部屋の外からそんなことを言ってきます。

あのヤロウさんは、いったいどのツラさげてそんなことをいってくるのでしょう?

だからわたしはいってやりました。

「ぜっっったいイヤ! 部屋に入ってきたら冥界に帰ってやるんだから!!」

わたしはほんのちょっと、申請フォームをミスっただけなのに。

異世界行きの説明に、ほんのわずかに齟齬があってちょっぴり誤解が生まれただけなのに。

たったそれだけなのに、ですよ。

巨大怪鳥に食われるわ!

お構いなしに電撃食らわせるわ!!

さらには巨大Gの群れに放り込むわ!!!

オマケに湖での特訓なんて、もは単なるイビリですよね!?

重石付けて湖に沈めるって、アオイさんは元SEじゃなくて元ヤ○ザだったんでしょう!?

もはや発想が構成員そのまんまですよ!!

(冥界に帰るって、おまえ、帰ったら公務員クビになるんじゃないのか?)

扉の向こうからアオイさんがそんなことをいってきます。

「いいもん! こんなブラック職場なら公務員なんて辞めてやるぅ!」

奇跡的に受かった冥界公務員の試験ですが、こんなブラックな職場だとは思いもしませんでしたよ!

来る日も来る日もわがままな死民の相手に、膨大な書類の処理にと奔走する日々。

挙げ句の果てに、戦地へ送り込まれるとか聞いてないですから!

(ローンの支払いとかどうすんだよ?)

「うっ……!」

さ……さすがアオイさん……意地の悪いことをいわせたら天下一品です。

ああ……あのネックレスとイヤリングとペンダントと、さらにはスマホを最新機種にして容量も増やしちゃって、あとあと、どーしてもあのワンピは欲しかったし店員さんも「すごくお似合いですよ!」といってくれたし、そうしたら絶対ブーツとか合わせないとダメじゃないですか!?

それもこれも、安定した公務員になれたから大盤振る舞いをしていたというのに!

ほんのわずかなミスを咎められてクビになりそうだなんて!

公務員のどこが安定してるっていうんですか!?

もうこんな不安定でブラックな仕事なんて……

「べ、別にいいもん! 自己破産でもなんでもしてやるから!」

(まだ若い身空で自己破産なんてしたら後々大変だろう?)

「アオイさんのお世話よりマシですよ!」

そう、いくら見た目だけ可愛くたって、内面は鬼でしかも男じゃないですか!

たまにうっかり見た目に騙されそうになりますけど、もう絶対に騙されたりしないんですからね!?

その後もアオイさんは、のらりくらりとわたしを説得しにかかりますが、わたしは絶対に折れませんよ!

(今後は魔法でなんとかしようと思う)

ですがアオイさんは、いきなりそんなことを言ってきました。「そんなことできるわけない」というわたしの言葉にアオイさんが答えます。

(だってここは、ファンタジー感溢れる異世界だろ? スポ根でなんとかするより、魔法理論でスマートに、そして一気にレベルアップするほうがいいって気づいたんだよ)

何を今さら、そんな都合のいい話。

そんなことが簡単にできるのなら、今までのわたしの苦労はなんだったというのですか。

湖に沈められたり、Gにたかられたり、バケモノに突かれたり、まったく意味なかったじゃないですか……!

(本当だって。そうしたらお前だって、この世界で大活躍できて、みんなにチヤホヤされて、富も名声も思うがままだぞ? だけどな……)

………………。

(あきらめたらそこで自己破産だよ……?)

………………!!

わたしは。

その心に染み入る言葉を、心の中でしばし反芻し。

その場にガックリとひざを突きました。

 

先生……!! 完済がしたいです……

 

こうしてわたしは観念して、部屋の扉を開いたのでした……

 

(つづくといいな)

アオイさんの転生設定を間違っただけだというのに、わたしは異世界へ出向扱いとなったのでした──

──ってちょっと!

嘘でしょ!?

異世界ってアレですよ!? 戦地のド真ん中なんですよ!

アオイさんの国で例えるなら、ドンパチやってる海外のド真ん中に後方支援で派遣されるようなものですよ!?

現に先日、異世界に来た早々戦闘に巻き込まれるわ、バカでかい熊に追いかけ回されるわ、さらには魔力を吸い尽くされたあげくにアオイさんに張り倒されるわ!?

わたし、ただの区役所公務員なんですよ!?

そんなパワハラ、許されるはずないじゃないですか!

だからわたしはティファさんちの一室を借りて、エレシュ係長に電話をしたのです。

すると係長は宣いました。

「あなたの出向は受理されてますが?」

「……はいぃ? い、いや係長? ここ、戦場のド真ん中ですよ?」

「はい、存じております」

「そんな戦地のド真ん中に、ただの地方公務員で冥界役場勤めのわたしが出向けるはずが……」

「上には特例を認めさせました。安心してください」

「安心できませんよ!?」

ナニその特例!? ただのお役所公務員を戦地に送り込む特例ってどういう特例!?

「とにかく。本来であればわたしが出向きたいところですが、危機的世界に陥っているのはあなたの担当世界だけではありませんし、どうにも手が回らないのです。戦地にただの公務員を送り込まねばならないほどに、あなたのミスは重大事であることを知りなさい!」

「そ、そ、そんな!? 性別と年齢をちょっと間違っただけじゃないですか!?」

「それが大問題だと言っているのです! 転生申請は、十分に注意するようにとあれほどいったのに! しかもあなた、これが最初じゃないでしょう!?」

「で、でもでも、ここほんとに戦場なんですよ!?」

「安心しなさい。ちゃんと、わたしが閻魔係を担当してあげます」

「死ヌこと前提ですねソレ!?」

くぅ……!

冥界人は、死者と日々接しているだけあって、どうにも死生観が麻痺していますョ!?

まるで「骨は拾ってあげます」といわんばかりの態度にわたしが呆然としていると、エレシュ係長が脅迫じみたことをいってきます。

「いいですか? あなたの辞退は認めませんよ? そもそも懲戒免職もやむなしの重大ミスを、なんとかわたしのほうで取り繕った結果が異世界出向なのです。ここで出向を辞退したら、あなたの免職は免れませんよ?」

「な……な……な……」

あまりの物言いように、わたしは二の句が継げなくなりました。

「とにかく、転生者であるアオイさんに誠心誠意尽くすように。彼……いえ彼女かもしれませんが、とにかくアオイさんがお亡くなりになるようなことがあれば、その異世界はおしまいなのですからね!」

そういって、エレシュ係長は一方的に通話を切ってしまいました。

「そ……そ……そ……」

誰もいない一室で、わたしは「そんなバカな!?」と悲鳴を上げるしかなかったのでした……

(つづく?)

「……あ」

キリ番ゲット転生者である横瀬蒼生よこせあおいさんの転生申請をパソコン画面で終えて、優雅なコーヒーブレイクを満喫していたわたしは、出力された申請控え書類を見て呆然となりました。

……性別、間違ってる?

パソコン上の申請フォームは、分けの分からない入力を様々に強いられるのですが、そこには確か性別欄があって、『女 男』の選択肢ラジオボタンが設けられていたはず。

わたしは確かに、最初のラジオボタンにチェックを──

──ああ!? 『男女』じゃなくて『女男』の並び順になってる! だから間違えたの!?

っていうか性別の選択肢なんなの!? いらないでしょ!

アオイさんが男であることなんか一目見れば分かるじゃない! それより閻魔帳にも『男』って書いてあるじゃない!!

なのに、転生申請で改めて選択させるってどういう了見よ!?

そもそも! ペーパーレスを激しく推進してるから転生申請もパソコンになったのに、どうしてこんな控えをプリントアウトしてくるの!?

この控えさえなければ、優雅なコーヒーブレイクを満喫しきれたというのに!

ああもう……!

ほんとに…………!

まぢで………………!

「ど、どぉしましょぉうぅぅ……」

わたしは途方に暮れて頭を抱えます。

こ、こんなことをしでかしたのがバレたら、またもやエレシュ係長に大目玉ですよ?

あの人、キレるとナニをしでかすか分からないのですよ?

下手したらタマ取られますョまぢで!?

「タマが無事だったとしても、どう考えても減給でしょコレ……」

この前の減給処分が終わったと思ったら、エレシュ係長がまたもや難癖付けてきて、追加で6ヶ月間の減給処分真っ只中だというのに。

そのせいで生活費すら捻出できずに親から仕送りをもらっているというのに!

これ以上に減給期間が延びたら、どんだけ親に小言をいわれると思っているのか、あの係長は分かってません!

「ううう……なんとか……なんとかしなくては……」

こ、こうなったら……こうなったら、ですョ。

なんとか、なんっっっとかごまかすしか手はありません。

なぁに、大丈夫です。性別が変わるくらい大したことじゃありません。

女勇者としてあの世界を救えばいいだけですからね?

大勢に影響はないのです!

ここでまた修正申請しているほうが時間のロスになって、異世界がなお危険にさらされるというものですよ。

あ、そだ。

一度でも申請したら、もう変更できないと言い切っちゃえばいいじゃない?

うんうん、それにすんごい美少女に生まれ変われるわけだし?

人って誰しも一度は性別入れ替わり願望を持つっていうし?

何しろ、男の娘って人気だしね!

よし決めた! アオイさんを説得しよう!

そのほうが時間のロスないし、つまりは異世界のためなんだから!

あ、そうだ! 転生時の記憶消去を免除するってことにしちゃおう!

キリ番ゲット転生はそもそも記憶消去されないんだけど、そこは方便というか? 方言というか?

「ふ、ふふふ……わ、わたしって天才なんじゃ……?」

こうして。

わたしは、不退転の覚悟で応接間に向かうのでした。

 

だから、なのでせう。

年齢設定が、デフォのままの0歳児だったことに気づかなかったのは。

下界に転生すると、もう本当に修正は効かないのでしたけれども、さらなる減給という窮地に立たされていたわたしには、どのみちそんな些細なミスに気づけるはずもなかったのです──

──っていうか!?

特別枠の転生者申請フォームだというのに、なんで年齢欄がデフォのままなのよ!? あのシステムの開発者、出てきなさいよ!?

(つづけ)

ここからの物語は、些細な凡ミスだというのにそれを咎められ続ける不憫で可憐な冥界人・ユーリの、聞くも涙、語るも涙の物語なのであります!

例えば、しゅうとめにいびられているお嫁さんもまっしぐら──もとい、まっさおになるほどの過酷ないぢめにもかかわらず、決して挫けないユーリさんの、崇高で健気な生き様をアナタにお届け!

そんな、感動巨編請け合いの物語と相成っております。ぜひご一読ください!!

っていうかほんと、わたしの扱いヒドくない!?

「激レア、キタコレーーー(゚∀゚)ーーー!!」

 昼下がりにも関わらず、カーテンも開けないままの薄暗い六畳一間に奇声が反響する。

 その奇声を上げた本人・松島結花は、ゴロ寝していたベッドから跳ね起きるやいなや、スマホを握りしめガッツポーズを決めた。

「わたしスゴイ! 無課金で最強レアリティゲットとかツキすぎじゃない!?」

 マンガや衣服、果てには下着まで散乱している部屋で独り言をいいながら、結花は嬉々としてスマホを操作していた。

「うは〜〜〜。このコ、ものすごいハイスペック! はぁ……うっとり……」

「うっとり、じゃないですよ」

「ひゃあ!?」

 背後から急に声をかけられて、結花は両方の肩をびくりと跳ね上げる。そして振り向きざまに抗議の声を上げた。

「ル、ルシファー! 勝手に入ってこないでって、いつもいってるでしょ!?」

「お取り込み中だったようですから。邪魔しちゃ悪いと思って」

「ノックくらいしてよ!」

「そんなこといわれても、我、猫ですし」

 そういいながら片手を上げてみせるルシファー。そこには見事な肉球があった。

「人型に化ければいいじゃない!」

「人間界では疲れるっていってるじゃないですか。汝のようにデタラメな魔力があるわけでもないですし」

 ベッドの上で丸まっているその黒猫──ルシファーは、あくびを噛みしめ面倒くさそうにしゃべっていた。

「にしても結花。相変わらず退廃的で自堕落で残念な生活を耽溺しているようですね?」

「耽溺してないから!? いまちょっと夏休みなだけだから!」

「夏休みって……もう十月ですが? そもそも汝は小学校中退で、いま無職じゃないですか」

「中退も無職もルシファーのせいでしょ!?」

「またそうやって何でも人のせい……というか猫のせいにして。そもそも人間として、猫のせいにするのはどうかと思いますよ?」

「あなたほんとは天使でしょ!? それにわたしを天界に誘拐した犯人はルシファーじゃない!」

「誘拐だなんてまた人聞きの悪い。でもまぁ別にどういわれようが構いませんけどね。『猫に誘拐されました』なんて戯れ言、誰一人信じるわけありませんし?人間の法律が、我ら天使に通用するわけないですし?」

「くうぅぅ……あなたはそうやって、いつもノラリクラリとヘリクツを……」

 松島結花は、十歳のときに魔法少女になった。

 その生まれついての魔力量は神々をも凌ぐとまでいわれた。つまりは、こと魔法において結花は常軌を逸した天才だった。

 魔法などとは縁もゆかりもない人間界においては、その尋常ならざる才能に誰一人気づくことはなかったが、天界魔界では話がまったく違ってくる。

 魔力を感知できる天使と悪魔は、結花が人間界に生まれ落ちた瞬間にその絶大な魔力量を感知し、そして驚愕した。結花は、何かの手違いがあって、本来生まれるべき世界を間違ったのではないかとまでいわれた。

 そうして、いわゆる『結花争奪戦争』とも呼ばれる第二次天魔大戦が勃発する。人間界をも巻き込みかねなかったその大戦は、実は結花を発端にして始まった。

 開戦当初は劣勢に立たされていた天使たちであったが、戦いの間隙を縫って黒猫天使ルシファーが結花と接触することに成功する。そうして当時、魔法少女アニメにやたら憧れていた結花をあっさり誘い出し、天界に招聘したのだった。

 そこからは、天使たちの圧倒的有利で大戦が進むものの、悪魔軍の規模が桁違いでしかもゲリラ戦に持ち込まれたために、終結までには実に十年の歳月を要した。

 そして最終的には天使軍の勝利で戦いの幕は閉じて、勝利の余韻も冷めないうちに結花は実家に戻ってきた。それがつい半年前の話。

 実に、十年ぶりの帰省だった。

「と、とにかく! わたしは十年にも及ぶ死闘を戦い抜いたんだから、ちょっとくらい長期休暇を取ったってバチは当たらないでしょう!?」

「ちょっとくらい? 結花が戻ったときは泣いて喜んだ両親も、いまや腫れ物に触るような態度ですが?」

「そ、そ、そんなことないわよ!?」

「汝は人間界で『犯罪に巻き込まれたかわいそうなコ』として扱われ、特別教育プログラムも施されているのでしょう? なのに学校に行かないなんて、単なる不登校じゃないですか」

「だ、だって!? いまさら小学校に通えるわけないじゃない!? なんで本当に小学生と一緒なのよ!?」

「効率重視なのでは?」

「嫌がらせの間違いでしょアレ!?」

「まぁ……汝、手足だけは一人前に伸びきってますからねぇ」

 ルシファーは結花の体をまじまじと見た。

 いまはボサボサのだが、()くだけで艶やかになる黒髪は背中の中程まで伸びている。Tシャツとショートパンツからのぞく手足はスラリと伸びきり、肌は吸い込まれそうになるほど白く、まるで輝いているかのようだった。

 身長は一七二センチと女性としては大柄だが、胸以外はスレンダーなので、モデルでも通用するようなスタイルだ。

 柔和な印象を受ける瞳は大きく二重で、手入れもしていないのに眉毛もすっと伸び、鼻も高い。桃色の唇はまだあどけなさを残しており、ルックスについては童顔といったよかった。そのスタイルに反して。

 ルシファーが、そんな結花をまじまじと見ていたら、結花は少し身を引き気味にしていった。

「な、何よ? イヤらしい目つきで見ないでよ?」

「何をいっているんですか、処女のくせに」

「ち、ちがっ……!? 違くはないかもしれないコトもないわけで!?」

「十年間、毎日一緒にいた我に、変な見栄を張っても仕方ないでしょう? あれだけ戦いに明け暮れていたら婚期も逃しますよ」

「婚期はこれからだよ!?」

「それともなんですか? 実は魔界のバケモノ達にえっちぃコトでもされてたんですか? 触手プレイとか?」

「されてないから!? 正真正銘の処女だから!!」

「やっぱりそうなんじゃないですか」

「くぅ……!」

 結花はガックリうなだれて、その長い手足を床に落として四つん這いになった。

「小学校の頃の友達はもう大学生で、カレシがいたり経験あったりだっていうのに……わたしったら二十歳になっても……まだ何も……!」

「ご愁傷様です」

「人ごとのように! 全部ルシファーのせいじゃない!」

「ほんと汝は、猫のせいにするのが好きですねぇ。我、大戦の開戦時にいったじゃないですか。ある程度の戦火を人間界に飛び火させた方がいいって」

「そんなこと、できるわけないでしょう!?」

 天使と悪魔の本格的な大戦は、結花が天界に招聘されてから三年後に始まった。そのときルシファーは、結花にこう進言した。

 この戦乱は人間界にも波及させないと、汝はのちのち困ったことになる──と。

 なぜならば、そうしないと結花がどれほど活躍しようとも、人間界では誰にも評価されないし、評価されないということはビタ一文入ってこない。

 だから天界魔界の争いに人間界も巻き込み、高度な政治的取引を行う──これにより、結花の人間界での身分と生活を保障させる。それがルシファーの考えだった。

 だが結花は、これに大反対する。

 ルシファーがいっていることは、つまりは人間界で戦争を起こすということに他ならない。結花の身分と生活を守る、ただそれだけのために戦争を起こすというのだ。

 その結果は自明で、多くの人が死ぬだろう。

 そんな行為は許容できない──と、当時まだ十三歳だった結花は宣言し、悪魔たちのほとんどを人間界に侵攻させることなく殲滅したのだった。

 当時の回想を終えたルシファーが、ため息交じりに口を開ける。

「──で、その結果がヒッキーですか」

「ヒッキーじゃないもん! いまちょっと休暇を満喫しているだけだもん!!」

「人間界にちょろっとでも火を付けておけば、世界中の国々からバックアップを受けて、各国の税金から無尽蔵にカネも支払われ、さらにはその戦乱を収めたとあっては、歴史に名を刻むほどの功績だというのに。それがいまやただのニート。かっこ笑い」

「やめていわないで!?」

「あげく、たんなる犯罪被害者と思われて、ワイドショーでは『空白の十年間! 少女は何を思うのか!?』とかゲスな勘ぐりをされて、ネットで画像流出のあげく変質者にストーキングされる始末。もはや哀れとしかいいようがありませんね」

「やめてよ!? わたしがんばったのに、みんなひどいよ……!」

「だから、そのがんばりを世間に知らしめないからこういうことになるんですよ」

「で、でもでも! わたしの都合で戦争をわざと起こすなんてできるわけないでしょう!?」

「……まぁ、それはそうかもですけど。しかしそもそも論として『どのみち、悪魔軍の人間界侵攻は抑えきれないだろうから、多少なりとも被害が出る』はずだったのに、汝、本当に一人でやり抜いちゃいましたらね。なんというかその……無駄に高性能ですよね?」

「無駄とか!?」

「魔法以外は本当に残念なコなのに」

「残念とか!!」

「いい加減、その残念なおつむを小学校で鍛え直したらどうですか? リアルな意味で」

「だから! 二十歳にもなってどうやって小学校に通えっていうのよぉぉぉ!」

 ついには、ベッドの上に伏せっておいおいと泣き出す結花。それを見てルシファーはため息をついた。

「とどのつまり、汝のやったことは、人知れず奉仕活動をしただけなんですよ。道端に転がっているゴミを拾うのと、悪魔というゴミを駆除するのとの違いは、程度の差だけですね」

「ううう……でもでも、それでもわたしは、たくさんの人を救ったわけで……」

「感謝されてませんけどね? 誰にも」

「しくしくしく……」

 もはや言い返す気力もないのか、結花はベッドに伏せったままさめざめと泣くばかりになった。

「さて。今日は妙にイラッときてしまい無駄話が過ぎましたが──」

「イラッときてたの!?」

「──過ぎましたが、本題です」

 ルシファーは、部屋の中央にあったローテーブルに飛び移ると、そこにおかれていたタブレットを肉球でタップしていく。

「悪魔の残党が見つかりました。コイツです」

 タブレットに表示された画像は、超望遠で撮られたかのような写真だった。

 その画像は、スーツに身を包んだ男性が映っている。斜め後ろから撮影されており、さらにはピンぼけもしているので判然としないが、ずいぶんと若そうな男だった。

 結花は涙目のままその写真を覗き込む。

「なに……? 珍しく人型なの?」

「そうですね。しかも今回は大物ですよ」

「大物って、どういうこと?」

「コイツは、魔王の息子です」

「え……?」

 結花が思わず息を呑む。

 魔王は、一騎打ちにおいて結花が返り討ちにあった唯一の相手だった。

 結花の魔力量は魔王のそれをも圧倒していたが、戦いにおいては、魔力だけが決め手となるわけではない。魔王の老獪(ろうかい)な戦略に、当時の結花は手も足も出ずに、瀕死の状態で逃げ帰ったのだった。

 もちろんその後の最終決戦で結花は魔王を打ち破ったのだが、初めて負けたときの屈辱と痛みは早々忘れられるものではなかった。

 そんな強大だった存在の息子とあっては、当然見逃すわけにはいかない。

「ど、どうして、そんなのが人間界に……!?」

「どうやら大戦前に──というより彼が幼少の頃より人間界に潜伏させていたようですね。万が一のときの保険というヤツでしょう」

「魔王の息子が、平然と人間界を闊歩しているというの!?」

「信じがたい話ですが、そうなりますね。彼はいま、アメリカのシリコンバレーを根城にしているとの情報を掴みました」

「シリコンバレー?」

「……結花、もしかして知らないのですか?」

「も、もちろん知ってるよ!? あれでしょ! なんかスマホとか作っている人達がいっぱいいる場所でしょ!?」

「………………はぁ。人間界に戻ってきてもう半年も経つのです。学業のブランクを取り戻せとまではいいませんが、世間様の一般常識くらい学んだらどうなのですか?」

「ま、学んでるよ!? ニュースとか見てるし!」

「ニュースを見る程度のことは当たり前ですが?」

「うぐっ……!?」

「……まぁいいです。とにかくシリコンバレーとは、公的名称ではありませんが、人間界において最も先進的な地域です。ICT企業が多く集まる場所の総称ですね」

「あいしー……てー……?」

「あーもーいいです。とにかくコンピュータ関連企業が多い場所なんですよ。つまり魔王の息子は、人間界において、コンピュータを使った何かしらのテロ行為を企てているのかもしれません」

「それヤバくない!?」

「そう、ヤバイんです。コンピュータなるものには我も詳しくありませんが……人間の技術において最重要であることは確実でしょう。それを魔法に応用されたら……何か非常にまずいことになりそうです」

 真剣に話すルシファーの様子──といっても猫だから表情はいまいち分からない──に、結花はゴクリと喉を鳴らした。

 ルシファーが続ける。

「つまりは、引きこもっている場合ではないのですよ」

「だから引きこもりじゃなくて長期休暇だから!? それに、こっちに流れてきちゃった悪魔の残党狩りには毎回付き合ってるじゃない!」

「汝もほんと付き合いがいいですよね? 給料も支払われないのに」

「そう思うなら生活費くらい支給してよ!?」

「天使がお金なんて持ってるわけないじゃないですか」

「開き直った!」

「どのみち残党狩りをしないことには、結花の十年間にも及ぶ犠牲が無駄になってしまうわけですし?」

「ううう……魔法少女を辞めることもできないなんて……」

「もう『少女』なんて歳でもありませんがね」

「そんなこというなら! ちゃんとした少女に引き継げばいいじゃない!」

「そうはいっても魔法のステッキ(トライデント)は、汝が死なない限り持ち主を変えられませんし」

「もはや呪いのアイテムだよねアレ!?」

「あ、そうだ。汝の呼び名を変えればいいんですよ。魔法少女ならぬ魔法処女とか」

「なお悪いわ!!」

 結花の抗議をやり過ごし、ルシファーは大きなため息をついて──妙に人間らしい仕草をするその猫はいっとき瞑目すると、気を取り直したとでもいうように目を開けて、そしてハッキリとそう告げた。

「では今日も──全くもって報われない、ご奉仕活動の時間ですよ」

 (つづく)

 ちょろっと自己紹介するつもりが、なんか膨大な量になりましてすみません!

 やっと身軽になれたのが2017年の話でして、ついにシャバに帰って来られた!気分です。

 そうして、よーーーやく執筆活動を再開できた次第です。長かった(ToT)

 さらには幸運にも、秀和システムさんにお声がけ頂き、前掲書『しんどいがサクッと片づく 考えない仕事術』を2018年に出版することができました(^^)

 

 いやー、それにしても、ぼくは『事業』なんて規模で仕事しているわけではないのですが、それでも商売に失敗すると手痛いですね……

 でもまぁ、失敗にも懲りずまたラノベの諸活動を色々としていきたいと思います。今度はIT業務と平行してね(^^;

 というわけでこんな人間が書くラノベ。皆さんの毎日が愉快になるよう今後も励んでいく所存です!

 ぜひ楽しんで頂ければ幸いですm(_ _)m

 そうして出版も一段落しまして、ぼくは思いました。

「うん、なんだか出版もできたし、気はすんだかな?」

 プロデューサーさんには多大な尽力をかけて頂いたにもかかわらず、なんとなく、つぎの実用書には気乗りしないままずるずると2年が過ぎ……

「やっぱり、ぼくの書きたいのはラノベなんだ!」

 と思うに至ります……改めて書くと、ほんとやりたい放題ですね自分!

 あ、プロデューサーさんにはいまでもお世話になっておりますが(^^;

  

 ということで本格的に創作活動に突入します。

 まず、IT業務で自分がパンパンになっていたので、ほぼすべてを終了しました。業務を仕事仲間に譲ったりして。

 つぎに、法人として500万円借り受けました。

 法人といっても実質ぼく一人ですから、この金額はなかなかどうしてけっこうな額です。どうしてここまでやったのかというと、ラノベを自分でプロモーションをしようと思ったからなのですね、ネットで。

 これにくわえて幾ばくかの貯金もありましたから、これで1年間無収入でもなんとかなるだろうと。

 そうしてラノベ執筆を再開させます。

 基本は新人賞への応募でしたが、それがダメだった場合、電子書籍にして自分で販売しようと目論みました。大学のころと発想がまったく同じ!

 で、新人賞は一次通過はしたものの結局落選。なので電子書籍にして、プロモーション活動を開始します。

 ですが……いちど無収入になると、恐ろしいほどの勢いでキャッシュがなくなるのですよ……

 どうもぼくは、実家にいた頃のぬくぬくしたイメージが抜けていなかったようで……生活費を始め、家賃や光熱費などを支払ったあとに、プロモーションのための諸経費を支払うとなると……毎月凄まじい出費となりました。

 そうして半年でキャッシュが底を尽きます。あっという間でした。

 つまり、社を上げてのラノベ事業は大失敗です。(社には自分一人ですが!)

 これまで、IT業務は比較的堅調に推移していましたから、フリーターのころとは違い、独立起業してからこっちお金の苦労はなかったんですが、このとき生まれて初めて、資金繰りなる活動を行いましたね、えぇ……(ToT)

 引きこもりから日雇い労働のころがいちばんつらい時期だとしたら、この資金繰りの時期はワースト2といったところですねぇ。

 

 そうしてなんとか、親・親戚に頼ることなく資金のめどが立ち、つぎはすぐさま営業活動ですが、これまでずっと懇意にしてもらっていたとあるIT会社にお願いして仕事を回してもらうことで食いつなぎました。

 ですがさすがに借金は重く……これを返済するのに約3年を要しました(ToT)

 自立後も、なんだかんだと大小様々な仕事に恵まれて、フリーターだったころとは打って変わってそれなりに安定した生活を送れました。

 まぁ、平たくいえば向いてたんでしょうねIT関係。スキルを身につけるのも苦ではなかったし、逆に面白かったのです。

 でも「出版したい」という気持ちはずっとくすぶり続けておりまして、「とにかくいちど出版してみたい。小説でなくてもいいから」という気分になっていました。

 そこで、とある懇親会で知り合ってから懇意にさせて頂いていた出版プロデューサーさんに相談を持ちかけます。

「あの、なんか出版したいんですが、どうにかなりませんか?」

 嘘みたいなふてぶてしさ! でも実話です(^^;

 まぁ、やっぱり出版というのはハードルが高くて、そのプロデューサーさんが所属する組織の元には、年間何百本という企画や原稿が送られてくるそうですが、それらが採用されるのは一握りだそうです。

 だというのに「なんか出版したい」という程度の気持ちで相談するのは、ほんと、ふてぶてしいにも程があると思います。

 ですが……なんか出版できまして(゚Д゚)

 実績も知名度もないというのに、どういうわけか、なんと3社からもオファーを頂くことができて、うち1社と本当に出版することになりました。

 本気か!?

 しかもです。

 ぼくは、バリバリの実用書を企画してたんですが、編集さんからのオファーは「佐々木さん、小説も書けるんですよね? ならば小説仕立てで書きましょう」とのこと……!

 IT業務に専心するあまり、ちょっと忘れかけてた創作の情熱をこのとき思い出しました(^^;

 あ、ちなみにこの出版を契機に法人化もしまして、フリーランスから代表取締役にクラスチェンジ。まぁ代表といっても会社にはぼく一人しかいませんが!

 そうして小説風実用書として出版して頂いたのが『勉強の「しんどい」がスッと消える!3分間メソッド』(総和社)です。

 ぶっちゃけ爆発的には売れませんでしたが、2017年現在で出版から7年経っても販売してくれておりますので、いくら感謝しても足りないくらいです。

 書籍って、ぜんぜん売れないと数年で裁断処理されてしまうのですよ。出版社の在庫になってしまいますので、経理上、いろいろ問題が出てくるのです。

 いまなら電子書籍で原稿だけは残すという手もありますが、いずれにしても出版社って、本当に大変な業種だと思います(-_-)

 新人がなかなかデビューできないのもよく分かりました、えぇ。

 ──と、胸をなで下ろしたのもつかの間、そこの会社は半年でクビになりました(ToT)

 いやー、お局さんとケンカしちゃったんですよねー(^^;

 我ながら、その頃のぼくは「剣山か!」と思うほどささくれ立っておりましたし、あと生意気でした。

 あーでも……生意気なのはいまもそうか! 歳食ったおかげで、生意気いっても若くないから生意気には聞こえなくなっただけというか(^^;

 まぁとにもかくにも、20代半ばのバイト(ぼく)が社長に食ってかかるわ、お局さんのいうことは聞かないわで。

 最終的に「牛乳パックを洗わないで捨てた」が理由で解雇になりました……!

 いやまぁその出来事はもちろん引き金にすぎず、それまでにぼくが弾薬をたっぷり詰め込んでいたからなのですが。

 しかし、いきなりクビでは業務が止まってしまうため仕事は自宅で行う、ということになりました。いまでいうところのSOHOとかテレワークとかですね。

 ですがクビにはなっているので、身分としてはフリーターからフリーランスへクラスチェンジしました。

 それからのぼくは、仕事相手は様々に変遷ありましたが、いまでも同じ働き方をしておりますので、けっきょく一度も正社員になることなく現在に至りますねぇ。

  

 さて、初めての在宅業務は……極楽でした!

 満員電車に乗らなくてもいいし、面倒なお局さんもいないし、何しろ誰とも会わなくていい!

 いえ本来のフリーランスは、営業やら打ち合わせやらで積極的に対面しなければならないのですが、そのときぼくはまだ在宅バイトみたいなものだったので(^^;

 しかも実家でしたから、幾ばくかの生活費を入れたら三食昼寝付き!

 そうして、ちまちまとHTMLとCSSを打って、サイトやメルマガに載せる販促用文章をちょろっと書けばお金になる。冷暖房完備の自室で。

 ベルトコンベアー切り替え業務から比べたらほんと極楽でした。

 初月は月収7万円にしかならず不安を覚えましたが、やがて仕事も増えて毎月安定して20万円くらいになり、実家住まいですからお小遣いすら出るようになりました。

 なので、これまで悲惨な生活(自業自得)をしていたぼくは、IT業務にのめり込むようになります。

 スキルを身に付ければ付けるほど、仕事の幅が広がって収入も伸びるのですからもう有頂天です。ラノベを始め、マンガもアニメも買いたい放題でした。

 そんなお一人様ライフを満喫すること数年、不意に親からこんなことをいわれます。

 「お前、いい加減出てけ!」

 というわけで、ぼくは29歳でようやく自立するのでした(^^;

 実家に帰ってからというもの、張り詰めていた気がいっきに抜けて、あっという間に引きこもりに突入!

 実家にいながらのバイトだとある程度貯金もできたので、そうなるとバイトもぜんぶやめてしまいます。

 世間様で「働いたら負けかな」といわれる前から働いていませんでした! これも、引きこもりとかニートとかいう言葉ができる前の話でして、ぼくはまさに『負の最先端』を突っ走っておりましたね!

 ですが無収入のニート生活のため、半年もすると貯金もなくなります。実家なので衣食住には困らないものの、使えるお金がまったくないとマンガやラノベも買えません。

 ということで、ぼくはやむを得ず日雇い労働をすることにしました。

 いまにして思えば、この辺の体験談は、ぼくが書いた実用書やラノベに色濃く生きておりますから、何事も経験だなぁと思ったりはしますが(^^;

 でも日雇い労働はなかなか過酷でして……

 例えば、とある栄養ドリンクの工場で、ベルトコンベアーで瓶詰めドリンクがどんどこ流れてくるのですが、それを一定間隔でベルトコンベアーの流れを切り替えるんですよ。ガッチャン……ガッチャン……と。そんだけ。どうしてそこだけ手動なのか、いまだにもって分かりません……

 そのほかには、東京の見知らぬ埠頭に連れて行かれてエンドレスに倉庫の荷だしをやったり(ヤバイ仕事じゃなくてよかった)、渋谷のスクランブル交差点で、師走、土砂降りの雨だというのに新装開店ラーメン屋のビラ配りをしたり(東京のド真ん中で、手足が凍傷になるかと思った)。

 とまぁそんな労働のさなか「学歴も職歴もないけれどなんとか定職に就けないものか?」と考えを巡らせまして、大学の頃に独学したサイト制作の知識を引っ張りだして、それを改めて勉強しながら大小いくつかのIT企業に面接に臨みます。

 ちなみにその頃は就職氷河期と呼ばれていた時代で、とにかく就職が難しく、派遣社員にならざるを得ない人もけっこういたと思います。

 そんな状況なもので、大きなIT企業は歯牙にもかかりませんでしたが、それでもどうにか、小さなネットショップをやっている中小企業に採用となりました。

 まぁ採用といってもバイト待遇だったんですが、週5日のフルタイムで働けるバイトでしたので生活費にはなります。

 そうしてぼくは、胸をなで下ろしたのでした──

 そうして「やっぱり新人賞を通してデビューするしかないのか……」と思うに至り、引き続き書いては応募する日々。

 ラノベだけではなく、RPGゲームのシナリオ募集など見つけたら即応募していたのですがすべて落選。

 そのさなか、ようやく1本だけ、とある出版社の一次選考を通過しました。

 その通知はわざわざ手紙で来まして、それを受け取ったときは飛び跳ねるほど嬉しかったですねー(^^;

 でもその後、その新人賞自体がうやむやになってしまい、けっきょくデビューには至りませんでした。

 

 ところで当時、ぼくは一人暮らしをしていたのですが、大学中退するとき、親に電話一本で辞めることを伝えると、親・大激怒(当たり前!)。仕送りもカットされて(当たり前!!)、フリーターとして生活費を稼ぐ傍ら、深夜にラノベを書くというような生活でして、それはもうめっちゃ荒んでおりました。

 当然、生活は乱れに乱れ、とある夏のある日、高熱を出したあげく腹痛で倒れます。

 食中毒だったのか、無理が祟って胃腸がやられていたのか、とにかくあまりの激痛に意識が遠のきました。救急車を呼ぶにも、電話を取りに立ち上がることすらできません。

 なのでやむを得ず、トイレまではっていき、ちょっと意識を飛ばしながらも小一時間くらいトイレにこもりました。

 そうしてなんとか小康状態になり、丸一日寝込みます。

 1日経って、胃痛はなんとか治まって、近所の薬局に出向き胃薬を買いました。医者に行けって話なんですが、そのときは保険料も払えないほど困窮しておりまして──のちに滞納金含めすべて払いましたが──とにかく医者に行けなかったんですわ(^^; いやもう気分は不法就労者でしたね。

 その病後に「もうダメだ……」と観念して、親に頭を下げて実家にスゴスゴ戻った次第です。

 このような放蕩息子をよくまぁ受け入れてくれたものだと思います(^^;

 そんな感じで入った大学は、なんの思い入れもなければ、学びたい学部(なんでか法学部)でもなかったため、3年後に中退してしまいます(゚Д゚)

 いま思えばとんでもないドラ息子でしたねぇ。遅まきの反抗期というか(^^;

 大学在中は、授業なんてそっちのけで、ラノベを書いては応募しておりました。

 ラノベだけではなく、大人向けの小説も書いては文学賞に応募するも、そのことごとくが落選です。

 そうしてぼくはどんどんやさぐれていったのですが、あるときこんな本に出会います。

『ネットで小説を売ったら300万円儲かりました』的な。

 正確なタイトルは忘れましたが、とにもかくにもこの本を読んだときぼくはこう思いました。

「そうだ……これからはネットの時代だ! 自分でラノベを売ればいいじゃないか!」

 ときはまだ、スマホもなければ常時接続もない、懐かしのダイアルアップ回線の時代でした。

 若い人は知らないと思いますが、昔のネットは、普通の電話回線だから3分10円とかかかるんですよ。『ピーゴロゴロ……ジーーー……』とか音を立てて接続されて、しかも表示速度はめっちゃ遅いんです(^^;

 でも、ネットで自著を売るといっても、当時はブログすらありません。なのでぼくはサイトを作り始めました。

 大学に行ってなかったから時間だけはありまして、ちまちまとソフトを学び、HTMLとCSSを学び、画像素材はあり合わせのものを見繕い、そうしてサイトを作りました。

 いちばんキツかったのは、決済システムの導入でしたねぇ。いま考えると、プログラミングの基礎知識もないのに、見よう見まねでよくやったなと思います。

 ちなみに、このときの経験がいまだメシの種になっているわけですから、人生どうなるか分かりませんね(^^;

 そうして四苦八苦して作った初の個人サイト──電話料金だけで3万円もかかりました!──ですが、たしか短編1本当たり150〜300円で販売して、数ヶ月で700円くらい売れたかな(^^;

 いま考えると売れただけでもすごいことなのですが、当時のぼくはそれで生計を立てたかったわけですからガックリしました。

 その後もあの手この手でサイトでのラノベ直販を試みますが、どうにもならず初の個人サイトは1年後に断念しました。

 しかし浪人中も、新人賞が気になって勉強があまり手がつきませんでした。

 参考書選びという名目で本屋に行き、ラノベを買ったり、作文についての本を買ったりしておりました。

 その中でも、いまでも非常に役立っているのが『ベストセラー小説の書き方』であります。というか、盛衰激しい出版業界にあっていまだ紙書籍で販売されているとは! すごいロングセラー!

 とにもかくにもこの本で初めて、ぼくは「小説にはお作法があったのか!」と知ります。

 そうして『ベストセラー小説の書き方』で学んだ通りにラノベを書いて応募しました。浪人生、何やってんだ?(^^;

「小説の書き方も分かったし、今度こそ入選するだろう」……と高をくくっていた応募作は、またもや落選。やっぱり一次選考にも引っかかりません(ToT)

「お作法通りに書いたのに、どうして落選するんだろう?」と心底気落ちしました。

 ですが、気落ちしている暇はありません。再びの大学受験が目前に迫っておりました。

 やばい。勉強してない……!

 なのでやむを得ず、ぼくは作戦を立てます。いわゆる傾向と対策ですね。

 ぼくの得意科目は相変わらず現代文でして、現国ならどこの大学でもほぼ満点を取れました。ですが暗記科目の古文・漢文はまったく点が取れません。そりゃあ勉強してなかったからね(^^;

 ちなみに古文に関しては、創作のため、社会人になってから勉強したのですが、どうせ勉強するなら学生のうちにやっときゃよかったなぁ……

 なので古文漢文のない大学を選び、英語はマークシートで最低20点を稼ぎ(つまりすべて山勘!)、世界史は、初期の頃は勉強してたので40点前後の目算。そうして現代文を95点以上取れば合格ラインに乗る──そんな大学をピックアップしました。

 そして、かろうじて大学合格できたのでした。

 でもまぁ……受験ではなんの努力もしなかったし、ラノベは落選するしで、まるで喜びもない合格でしたねぇ……

 そうこうしているうちに高校生になり、そこでも人知れずコツコツとラノベを書き続け、17歳の夏頃、ショッキングなニュースを目撃します。

 なんと、某大手出版社の新人賞で、弱冠18歳の学生が大賞を取ったとのこと……!

 ぼくと1歳差しかありません。

 そのときまでぼくは、新人賞を受賞するなんて、もっと大人になってからなのだろうと思い込んでいたので、たいそう衝撃を受けるとともに「こうしちゃいられない」と思い立ちます。

 そうして大学受験もそこそこに、応募作のラノベ執筆に取りかかります。

 当時、我が家にもようやくワープロが導入されたので、人差し指1本でキーボードをタイプして、原稿を清書したりもしました。懐い(^^;

 そうして受験勉強そっちのけで書き上げたラノベ原稿は……一次選考にも引っかからず落選(ToT)

 オマケに大学もすべて落選(゚Д゚)

 こうしてぼくは、浪人生となったのでした……しくしくしく……

 ということで、ワタクシ──佐々木直也がラノベ作家を志したキッカケなんぞ語ってみたいと思いますが、14歳のとき、ラノベ界の金字塔『スレイヤーズ』を読んだからでした。

 当時はまだ『ライトノベル』なんて言葉もありませんでしたが(^^;

 中学2年生でまさに中二病まっさかりのころ、スレイヤーズシリーズの中でもとくに『アトラスの魔道士』を読んで大層感銘を受けまして、それと同時に、ぼくはこんなことを思います。

 「文章だけなら、自分でも書けるんじゃね?」

 いまにして思えば失礼にもほどがありますが、まぁ子供が思ったことなんでご勘弁ください。

 子供の頃のぼくは、作画については大層な挫折感を味わっていたもので(のちにイラストを描き始めますが)、漫画家に憧れてはいたものの、マンガを自分で描くに至るほどではありませんでした。

 でもラノベを読み、あれほど多彩なイメージを文章だけで生み出せるのだと知って、いてもたってもいられなくなりラノベを書き始めます。

  

 ですが、書けない!

  

 まったくもって言葉が出てこないんですね。

「えーとほら、あのお城の三角形の屋根ってなんて名前だ!? そもそもお城は何でできているんだ!? レンガか!?」

 というような状況です。ネットもありませんでしたらねぇ。

 つまり圧倒的に知識不足・語彙力不足、加えて経験不足でした。

 それでも、単語帳を常に携帯して語彙力を増やしてみたり、親に百科事典を買ってもらったりして、人知れずコツコツと創作活動を続けました。

 副産物としては国語の成績がよくなったことでしたね(^^;

 国語の成績は、中学1年生では5段階評価で2だったと記憶してますが、ラノベを書き始めてからは常に5になりました。

 まぁ文章に触れる量が半端ありませんでしたから、当然といえば当然でした。

 松島結花(ゆいか)は魔法少女──だった。

 ある日いきなり現れたネコ型美少女に、魔法のステッキを譲り受けた結花は当時十歳。

 それからというもの、結花は魔法少女として獅子奮迅(ししふんじん)の活躍を見せた。

 わずか十歳で生身のまま天界に招聘されて、東大受験なんてナゾナゾに思えるほどに膨大な魔法理論体系を詰め込み、オリンピック選手も真っ青なほど身体的トレーニングに励み、フルコンタクト格闘家も驚愕するほどの実戦経験を積んだ。

 果ては魔界に単身乗り込み、人間界の支配を目論んでいた悪魔軍との大激戦。

 人間界で最強と謳われる某国軍の百倍たる戦力を有していた悪魔軍を根絶せしめた。

 たった一人で。

 だがその結果、結花には深刻な後遺症が残されてしまう。

 その後遺症とは、日常生活に支障をきたすような怪我や、魔法の使いすぎによる精神疾患などではなかったが、ある意味、それよりもっと深刻な状況となる。

 その後遺症とは、悪魔軍撃破までに要した時間──実に十年という時間を失ったことだった。

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