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メタっ娘

chapter 6-3 あのコがいるから

 新宿が人間で埋め尽くされる。普段から、歩道でもまともに歩けないくらいの賑わいだが、正体不明の物体が間近にあると分かったいま、人は車道にまで溢れ出て、交通網は大混乱をきたしていた。

 建物にいた人間が一斉に出てくると、歩道だけでは収まりきれず、車道いっぱい人で埋まる。これほどまでに人間がいたのかと思い芽以子は愕然とした。表通りから裏路地まで、あらゆる道路がラッシュ時の満員電車状態だ。

 残暑の熱気加えて、人が放つ怒りや焦りが、気温をよりいっそう引き上げているように思えてくる。

 その喧噪に、警察がかき鳴らす警笛が幾度も突き抜ける。大通りからはクラクションががなり立てていた。芽以子の前を、押し合いへし合いで進んで行く人々は、みな片手に携帯電話を握りしめ、不安な表情をあらわにして、必死にどこかへ進もうとする。

 芽以子は避難するのをあきらめて、雑居ビルと雑居ビルの合間に隠れていた。屋外階段の上にはビールケースが山積みになっていて、壁面は、換気扇からはき出された熱気で真っ黒。両隣はいずれも飲食店のようだ。

 屋外階段に腰をかけてスマートフォンを見る。すでに回線がパンクして、動画アプリやニュースサイトには繋がらなかったが、かろうじてTwitterには繋がった。その断片的な報道をまとめる限りでは、政府は、とにかく近場の緊急避難所へ、広い公園や学校の校庭に避難するよう呼びかけているという。街の警察官も、必死でそちらに誘導しているようだ。

 だがその政府や警官の思惑に反して、人々はみな電車に、街道にと群がった。どうやら、一刻も早く家へと、家族のもとへと帰りたがっているのだろう。

 その判断が賢明だと芽以子は思う。

 どんな広場に避難しても無駄なのだから。

 流しっぱなしのTwitterは、ヒステリックなツイートが流れいく。

 ──動いてる!? アレ動いてる!

 ──なんだアレ!? 本当に動いてるってよ!!

 ──テレビによると、あれは隣国の生物兵器とのこと。

 ──写真撮った! 拡散希望!!

 写真まで流れてきた。それも何枚も。怪獣映画のワンシーンのような写真だった。明らかに合成のもあれば、本当に、近場まで行って撮影しているような写真まである。

 あとはただ、生きている、動いているというツイートばかりだった。

 当然動くだろう、と芽以子は思う。

 あれは魔王本体なのだから、と。

 ツイートは続く。

 ──近くに人がいる!

 ──いま逃げてる! ヤバイよまじで!!

 ──写真撮りにいくとかバカのやること。

 ──渋滞なう!

 ──眼だ! 眼だよアレなんだアレ!?

 ──お台場付近がヤバイ!

 ──っていうか船出てる! 自衛隊!?

 芽以子は立ち上がる。映像はなくとも直感的に理解した。

「ティアラ──アガレット──!」

 ──ヤバイ!本気でヤバイこっちに

 ツイートが途切れたのと、芽以子の視界が真っ白になったのとはほぼ同時。

 雷が近くに落ちたかのような閃光。

 つま先から頭頂部まで、放電による痺れが駆け抜ける。

 轟音が、新宿の大気を震撼(しんかん)させた。

 ツイートは莫大な量になり、意味のある情報が捕捉できなくなった。芽以子はスマートフォンをスリープにする。

 魔王のブレスが、東京のどこかに着弾したようだ。着弾した場所は、広範囲に焼け野原となっただろう。

 幸いにして新宿は免れた。だが携帯電話片手に避難する人々は、状況を逐一把握している。

 街は、狂乱した。

「ふふ……」 

 芽以子は自嘲気味に微笑む。

「助けなくちゃ──」

 芽以子は疲れ切ったように、でも一歩、足を確実に踏み出す。

「ティアラを──」

 芽以子は、無茶苦茶に混乱している街に向かって歩き出す。

「アガレットを──」

 魔王がこの地に転移して来たというのなら、間近にいた船というのは自衛隊ではない。

 あちらの世界(ニカ)の船だろう。転移に巻き込まれたとか、そんな理由なのだろう。

 その人間の中には、ティアラとアガレットもいるはずだ。必ず。

「助けなくちゃ!」

 芽以子は、夕焼けに染まる人垣に割って入った。