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メタっ娘

chapter4-3 ドキッ!美少女だらけの三角関係(笑)

 どうしてわたくしが、アガレットと夜店を見て回らなければなりませんの?──開口一番いったティアラの台詞がこれだった。

 王都ウルパックではいま、勇者さま大歓迎の祭典が絶賛開催中である。王城でも昨夜は晩餐会が盛大に執り行われたが、街では大規模な祭りが開催されていた。御輿や山車がこれでもかというほど市中を練り歩き、ウルパックの繁華街はすべて車両通行禁止となり、道路には屋台と観光客でひしめき合う。観光客数はウルパック市外から訪れる人だけで一〇〇〇万人と予想されていた。

 たぶん、祭りの規模も世界最大なのだろう。

 そして今日から三日間、芽以子たちは休暇をとることになった。午前中から昼過ぎまでは、広大なウルパック城の主要な場所をザッと見学した。それだけで午後三時くらいになっていたが、この後どうするかという話になったときに、ティアラがすかさず「お祭りに行きましょう」と誘ってきた。芽以子は、誘われる前から祭りのことをアガレットに聞いて知っていたが。

 そもそも一国の王女が市井のイベントにお忍びで参加してもいいのかという問題もあるのだが、ティアラのでたらめな強さの前には、どんな悪の組織もかなわないだろう。むしろ、彼女に手を出したら壊滅させられてしまうに違いない。

「いやだから、明日は一緒にいくからさ。今日はちょっと、このお城の図書館で調べ物でもしたいなと……」

 そんな一大イベントを前にして、芽以子は『ティアラとアガレット両思い作戦』を遂行すべくティアラを促したわけだが、いともあっさり拒否された。ごもごもと取ってつけた理由を述べてみる芽以子。

「でしたら、わたくしもお手伝い致しますわ」

「いやいや、いいから。ちょっと個人的な調べ物なのでひとりで調べたいの。だからアガレットとふたりで楽しんで来てよ」

 むすーっとした顔付きになったティアラは、背後で直立不動に控えるアガレットを見てから、わざとらしくそっぽを向く。

「アガレットと行くくらいなら、わたくしも図書館で勉強していた方がいいですわ」

 ピクッと、アガレットの頬がわずかに動く。ティアラはアガレットのことになると情け容赦なくキツイ。

「芽以子さまのお邪魔はしませんから。薄暗い図書館の中、芽以子さまとふたりっきりで読書にふける夕暮れのひととき……ああ、ステキ……」

「どう聞いても邪魔する気まんまんだろうその台詞──ってとにかく! アガレットもせっかく楽しみにしてるんだし付き合ってあげてよ」

「アガレットが? そんなまさか」

 ティアラの刃物のような台詞に、アガレットは完全に落ち込んでいた。頭上に『ず〜ん』という岩のような効果音が見える

「ちょっとティアラ!」

 芽以子はティアラの手を引っ張ると、客室の隅っこに連れてくる。アガレットには会話が聞き取れないように。

「本人の目の前で、いくらなんでもひどいでしょ? アガレットだって人の子なんだから」

「芽以子さまはお優しいですのね。でもいいんですのよあれくらい。アガレットがへこたれるわけありません」

 どうも本気でそういっているあたり、ティアラは意外と鈍いのかもしれないと芽以子は思う。

 ──いや。

 鈍くなければ、芽以子がこれだけ敬遠しているというのにお構いなしで迫ってきたりはしないだろう。

「とにかく! アガレットってばけっこう楽しみにしてたっぽいのよ。だから──」

「休みは明後日まであるんですし、それなら明日三人でいけばいいじゃないですか。もちろん、最終日はわたくしと芽以子さまふたりっきりで」

「……ティアラって、もしかして本気でアガレットのこと嫌いなの?」

 そんなことを聞かれて、ティアラは目をぱちくりさせる。予想だにしない質問だったようだ。

「嫌いというか……長年一緒にいましたから姉妹みたいなものですし。姉妹で祭りを見に行ったって楽しくもなんともないでしょう?」

「それは姉妹関係によると思うけど」

 芽以子は一人っ子なのでその辺はいまいちよくわからないが、ただ一ついえることは、ティアラがアガレットを姉だと思っているのだとしたら、芽以子の作戦は、けっこうむづかしいのかもしれない。

 好意と悪意はじつは同じ感情で、だからこそ、何かの拍子でオセロのようにひっくり返すことも可能──と芽以子は何かのマンガで読んだのだが、もともとが家族と思っている人間を恋仲にするのは相当難しくないだろうか?

 そう思いつつ芽以子はティアラを拝み倒す。

「そこを曲げてさ、たまには姉孝行してあげなよ」

「ちなみにわたくし、アガレットのことは妹だと思ってますが」

「あ、そう……じゃあちょっとは妹の面倒みてあげてよ」

「いやですわ。なんでわたくしが……」

 普段は、頼んでもいないのに芽以子のいうことを聞いてくれるというのに、今回のティアラはずいぶんと頑固だった。こんなにも抵抗に遭うとは考えていなかった芽以子は四苦八苦する。

「じゃ、じゃあ……」

 芽以子はごくりと喉を鳴らした。

「アガレットと一緒に行ってくれたら、今夜、一緒に寝てあげる」

「……え?」

 芽以子の台詞に、ティアラはぽかんとする。

「だから、ご褒美に一緒に寝てあげる」

 いままで、決して絶対に何が何でもティアラを寝室に入れなかった芽以子が、そういった。

 ここまでの好条件を出したら逆に怪しまれるかも、と思うもつかの間、ティアラはそんな疑念は一切持たなかったようだ。

「ほんとうですか!?」

 いまや、ティアラの頭の中には『同衾』の二文字で埋め尽くされているに違いない。

「ほ……ほんとう……」

「約束やぶったら、縛り上げてでも一緒に寝ますわよ!?」

「や、やぶらないわよ!」

 キスでもしそうな距離まで詰め寄るティアラを、芽以子はぐいと押し返す。

「いっとくけど! ヘンなことしたら速攻で叩き出す……こともできなかったら舌噛んで死ヌからね!」

 ぱぁぁぁぁぁぁぁ。

 無意識に空属性(アーカーシャ)の魔導術を使っているのだろう。ティアラの背後に、無数の花々が咲き誇る。

 ふわり、と。ティアラがかろやかに回転した。

「さぁアガレット。いっしょにお祭りへ行きましょう」

「ちょっとティアラ! ヘンなことしないって約束しなさいよ!?」

 本末転倒という言葉を芽以子は思い出していた。自分の貞操を守るための作戦なのに、それをエサにしているのだから。