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メタっ娘

chapter4-1 ラブコメ、はっじまっるよ〜♪

「あのさ、アガレット」

「なんでしょう?」

「いい加減、自分に素直になれば?」

「どういうことです?」

「想いをお腹の中に溜めていてもなんの進展もないわけよ」

「だからなんの話です?」

「自分から一歩足を踏み出さないと想いは伝わらない、つってんのよ」

「芽以子さまこそ、はっきりとおっしゃったらどうなのです」

「じゃあこの際ハッキリいっちゃうけどさぁ──」

 芽以子は、ケーキをひとつまみほおばってからいった。

「ティアラに好きだといっちゃえば?」

 ぶっ──

 アガレットは、口に含んだ珈琲を盛大に吹き出した。芽以子は顔面珈琲まみれになる。

 芽以子とアガレットは、西の大陸最大の王都・ウルパックの繁華街にあるカフェテリアにきていた。王都を観光しているうちに何気なく入った店だったが、カマンベールチーズケーキが絶品だった。

 こっちにもケーキがあるんだ嬉し♪ と思ってケーキをほおばっていた芽以子は、よくよく考えれば、ここはあのバカ作者の妄想の産物なんだから、ケーキがあってもなんら不思議ではないと思い直す。

 近頃ますます、まるで海外旅行に来ているかのような感覚になってしまう。顔面から漂う珈琲臭をこれほどリアルに感じてしまうと、なおさらここが虚構の世界だとは思えなくなる。

「ああ、すみませんっ」

 ジド目で睨み付ける芽以子に慌てるアガレット。こっそり呪文を唱えて指先から蛍のような方陣が現れると、それが芽以子の前でパッとはじけた。

 光がなくなると、芽以子の衣服や顔からは珈琲が綺麗に消えていた。

水属性(ジャラ)の洗浄術式です」

「便利なことで」

 オープンテラスの端っこに座っていたので、魔導術には誰も気づかなかったらしい。魔法やら魔族やらの世界だが、魔導術が使えるのは王族関連の人間だけなので、王族がこんな普通のカフェテリアにいると分かると何かと都合が悪いそうだ。この店は盛況で、二人がまったく注目されていないというのも幸いした。

「で、話を戻すけど」

 芽以子は、たいして気持ちもこもっていない声でいった。

「ティアラにコクッちゃえば? いい機会じゃない。せっかく長い時間、一緒にいられるんだからさ」

 いま、このカフェテリアにティアラはいない。芽以子とアガレット二人だけだった。珍しい、というよりも初めてだ。

 昨日、一週間に及ぶ海の旅を終えウルパック港に入港し、入国などの諸手続を終えると、昨夜は港近くのホテルに泊まった。そして朝からは、ティアラは王女として何かと駆り出される羽目になる。アリゼール王家とのやりとりで忙殺されているようだ。向こうも王族なので、こちらも王族が出向かざるを得ないらしい。

 普段は変態美少女だが、さすがに王女としてのオフィシャルな立ち振る舞いは板についていた。

 だが、りりしく仕事をしているティアラをずっと見ていても仕方がないし、ホテルでぼーっとしているのも暇なので、気分転換にアガレットを連れ立って観光がてら近場のカフェテリアにやって来た。去りゆく二人に向ける、ティアラの恨みがましい視線を背中に感じながら。

 そして絶品ケーキをつつきながら、この一週間のアガレットの様子を観察した率直な感想を芽以子は述べてみたら、珈琲をぶっかけられたわけだ。

「何をいっておられるのです芽以子さま。告白も何も、自分にはそのような、やましい気持ちは微塵もありません」

「ふーん。じゃあわたしがティアラとくっついてもいいわけ?」

「え……?」

 芽以子の不意な発言に、アガレットは目をむいた。

「芽以子さまもそっちの気がおありなのですか!?」

 ガタンと椅子を倒して立ち上がり大声を上げたアガレットに、周囲の視線が注目する。

「ねぇわよってか声デカイ!」

 このカフェテリアは、オープンテラスだけで三十席もある大きな店構えで、いまは満席だ。それに、道行く人の通行量も半端ではない。歩道の向こうには六車線の大きな道路となっており自動車の列ができている。一昔前の、クラシックなデザインをしている車が多い。てっきり馬車などが行き来しているのかと思っていた芽以子はちょっと拍子抜けした。

 思えば召還されてからこっち、この世界の街に出てきたのは初めてだ。礼拝堂に呼ばれて王城内で数日間滞在したあとは、すぐに船旅だ。ティアラたちの母国を観光する時間はまるでなかった。

「ティアラに聞いたんだけどさ、あなたたちの国では同性の結婚が認められてるんだって?」

「……それはその……殿下が合法化されましたので……」

 この世界では珍しいことでもないのかと思っていた芽以子は、がっくりとうなだれる。

「そぉいぅことかあのレズムスメ……公私混同も甚だしい……。まぁとにかく、わたしがいいたいのは」

 芽以子はアガレットの顔をじっと見つめた。

「大切な殿下サマを、誰か他の女の子にとられちゃってもいいわけ? ってこと」

「で……ですからとられるも何も、自分は殿下のことをそのような目で見たことなどは一度もありません」

「ふぅん」

 頑ななアガレットに、芽以子は少しじれた。

「じゃあこの先、仮にわたしがナニかしらのキッカケでティアラを好きになっちゃって、この旅路でらぶらぶ(死語)な二人になってもいいわけね?」

「…………」

「行く先々で、アガレットは大魔法で魔族を蹴散らし、ティアラとわたしはいちゃいちゃしてればいいのね? 食事はティアラとわたしの二人きり、アガレットは別の店。お風呂もティアラとわたし、アガレットはシャワー。夜はもちろん、ティアラとわたしは一緒の部屋、アガレットは別室。アガレットはずーーーっと黙って新婚旅行よろしいふたりを見守り護衛をしてくれるというのね?」

「……あ……あのですね芽以子さま」

 アガレットの口の端が微妙に痙攣していることを芽以子は見逃さない。

「自分には、護衛のほかに、殿下を正しい方向に導く勤めもあります。わずか十五歳の身空である殿下に、そのような破廉恥(はれんち)な行動など一切させません!」

 はぁ、と芽以子はため息をひとつ。

「本当に、ほんっとうにティアラのこと好きじゃないわけ?」

「もちろんお慕い申しております。ただそれは、芽以子さまがいう『好き』とは違う感情です。そうですね、つまり尊敬……そう、尊敬なのです!」

「尊敬ねぇ」

「そうです! 尊敬なのです! そもそも殿下と自分は──」

 自分がどれほどティアラのことを尊敬しているのか熱く語り始めたアガレットの言葉は、芽以子のその台詞にピタリと止まる。

「アガレットがその気にさえなれば、ティアラもまんざらじゃないと思うケド」

「……え?」

 アガレットが珍しくぽかんとした表情で芽以子を見た。

「いま、なんと申しましたか?」

「だから、アガレットがその気にさえなれば、ティアラもまんざらじゃないっていってんの」

「……何をいってるのです? 殿下の自分への態度は誰が見ても明らかでしょう」

 ようやくノってきた。芽以子は心の中でにんまりと笑う。

「それは、アガレットが悪いわ」

「自分の態度の、いったいどこに問題が?」

「だって、やれちゃんとしろだの、やれしっかりやれだの、あれじゃあなた、口うるさいお母さんよ」

「お、お母さん!?」

「煙たがられるのも無理ないわ。恋愛対象になるわけないじゃない。とくにあのティアラならなおさらよ」

「殿下ならなおさらとはどういうことです?」

「もぅ、ほんとにニブイわね。ティアラって、とっても夢見がちなのよ。つまりまぁ妄想癖が強いわけ。あのテの女の子に、いつもいつもゲンジツ突きつけてたら、そりゃあ嫌われるわ」

「…………」

「でも、そういうコを落とすなんてカンタンよ。こってこてのロマンチックなシチュエーション作っておだてて酔わせて後は押し倒せばオッケー!」

「お、押し倒す!?」

 自分でいっておきながら、最近なんだかティアラに似てきたなと芽以子は思う。

「特にアガレットは、顔もスタイルもいいんだから。ティアラ好みだと思うなー。そのお堅い性格させ直せば、ティアラなんてイチコロよ」

「イ、イチコロ!?」

「でもま、アガレットにその気がないのなら仕方がないなぁ。せっかくイイ作戦考えたのに無駄に終わっちゃったなぁ。ま、いいや。そろそろ出ましょうか」

 立ち上がろうとした芽以子の腕を、アガレットはガシッとつかむ。

「どしたの?」

「……いやあの……」

 頬を赤く染めて、芽以子とは視線を合わせずアガレットはいった。

「……その……いちおう、その作戦というものを確認しておこうかなと」