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メタっ娘

chapter3-1 キャッキャウフフのはじまり〜

「芽以子さま、そろそろ機嫌直してくださいよー」

 ティアラは猫なで声でそういうと、芽以子に腕を絡めてくる。そんなことをすれば芽以子をますます逆なでするだけなのだが。

 芽以子はティアラを振り払うと、くるっと背中を向けてスタスタと歩いていった。

「芽以子さま〜」

 困っているのか喜んでいるのかよく分からない顔で、ティアラは芽以子の後ろをついていく。まるでアヒルの親子のようだった。

 芽以子はいま、歓迎の晩餐会に出席していた。つい先刻まで牢屋に放り込まれていた芽以子としては、文句の一つでもいいたい気分ではあるが。

 芽以子は地下牢から解放されると、だだっ広い浴室に放り込まれ、そのあとウエディングドレスも真っ青のひらひらなドレスを、侍女らしき人達に総出で着せられて、いわゆる謁見の間に通された。

 謁見の間は、ちょっとしたホテルのロビー程度の広さだった。真っ赤な絨毯の行く先は、十段上がった玉座である。絨毯の両端には、衛兵がずらりと整列している。

 しかし、その肝心の玉座は空だった。その代わり、回復して肌つやもしっかり良くなったティアラ(もちろん着衣)が玉座の脇いて、芽以子が入ってくるとトコトコと駆け寄って来た。

 そうしてその場で何度も平謝りをする。彼女は、この国ではそれなりに地位の高い人間なのだろうから、そういう人がこんな平謝りをするなど滅多にないことなのだろう。

 そうはいっても、さすがに殺されかけた身としては、しかも無実の罪を着せられて三日三晩も投獄されていた身としては、謝られたくらいでは腹の虫はおさまらないのだが、芽以子を殺しかけた張本人──アガレット=ブランケットを、どうやら芽以子と入れ違いで投獄されたようだが、ティアラはいうにことかいてあっさりと「死んで詫びさせますから」と、しかも笑顔でそんなことをいうものだから、本当にやりかねないと思った芽以子は許すしかなかった。

 そうして晩餐会は、歓迎と謝罪も込めて盛大に執り行われていた。

 晩餐会には四百人はいるだろうか。立食式で、ホールの至る所に円卓が置かれ、食べ切れんばかりの豪華な食事が山盛りに置かれている。

 その周囲は、いかにも貴族らしい人達がゆったりと歩き回り、挨拶したり歓談したりしていた。女性は、若者からおばさんまで、きらびやかなドレスでこれでもかというほど着飾っている。

 たぶん、ニッポンでもこういう催し物は開催されているのだろうが──たとえば政治家とかやりそうだが、高校生の身で、こんな豪華な場になど参加したこともない芽以子は非常に戸惑った。

 だから、終始ティアラがひっついてエスコートしてくれるのはありがたいが……彼女は、戸惑う芽以子を気遣ってという気持ちももちろんあるのだろうが、それ以上に盛大な下心もありそうでいまいち感謝の念を持てなかった。

「っていうか疲れた……」

 晩餐会の冒頭に、ティアラが芽以子を壇上で紹介した。今後、ヘンな誤解を招かないよう女性だが勇者さまだと断言して。四百人の貴賓から盛大な拍手がわき起こり、しかもそれはお愛想などではなく、彼ら彼女らの瞳はらんらんと期待に満ちていた。

 おそらく「これで世界は救われる!」などと考えているに違いない。芽以子は、それはそれで気が重くなる。

 その後はもう、挨拶のオンパレードだった。それでも、芽以子に直接挨拶に来られる人間は相当身分が高いはずだったが、食事も採らずに一時間も挨拶を強いられればさすがにげんなりする。

 ようやく挨拶が終わり、ティアラと芽以子はふたりだけでテラス席に出た。ふたりだけといっても背後には侍女が数名付き添っているが。

 会場二階にあるテラス席は、会場全体を見渡すことができた。もちろんテラス席なので、会場の反対側には広い星空が広がり開放的な空間を生み出している。今夜は、暑くも寒くもないちょうどよい気候だったので、疲れ切った気分もいささか回復できた。何よりも椅子のふかふかなこと。金色に輝いているが、本当に黄金だろうか。

 このテラス席は王族専用だとティアラが説明する。この手の会ではだいたいは、王族は最初の挨拶回りが終わると高台に鎮座して、あとはゆるりと過ごすそうだ。会場内の人間も、いちばん偉い王族がいつまでもウロウロしてたら気が気でないのだろう。学食で、校長と一緒に食事をするようなものかと芽以子は思った。

「いろいろとご迷惑をおかけして、本当にごめんなさい」

「本当よ……まったく……」

 愁傷に頭を下げてくるティアラ。しかし出会い方が出会い方だっただけに、いまいちつっけんどんな扱いになる。

「とにもかくにも、お食事を用意しましたのでまずは食べましょう」

 ティアラがちりりんとベルを鳴らすと、付き従っている侍女がすぐさま料理を運んでくる。温め直したというよりもできたてのようだ。

 湯気とともに鼻孔をくすぐるなんともいえない良い香りに、芽以子のお腹はグーと鳴った。すぐ隣に座っているティアラにも聞こえたのか、彼女はにっこりと笑顔になる。少し気恥ずかしくなり芽以子は口先をとがらせた。

 ティアラは、本当に目がくらむほどの美少女だった。容姿もさることながら、おそらくは、王族としての雰囲気なのだろう。オーラとでもいおうか。すべての立ち振る舞いがしとやかで優雅だった。生まれ持った美の才能が、幼少の頃からの英才教育で磨きに磨きがかかっている。

 正式名称はティアラ=セントクリスファー。歳は今年で十五歳。芽以子の一つ下だった。ちなみに投獄中のアガレットは芽以子の二つ上で十八歳だという。

 ティアラはこの国──セントクリスファー王国唯一の王女で、現在の国王は病床に伏しているというから、事実上、彼女がこの国のトップとなる。本来の芽以子の立ち位置であれば、黒塗り自動車に乗って移動されるティアラさまを、群衆に交じって手のひら振って感激する──ほどに身分の違いがある。

 それがなぜか、こうして隣にすわっておしとやかにスープをすすっておられる。

 ちなみにティアラは、円卓を挟んで向かい側に座っているのではなく、芽以子のすぐ真横に座っている。それも、むき出しの白い腕がくっつきそうなほどの距離で。座っているというよりは寄り添って一緒にご飯を食べている。

 「芽以子さま、はい、あーん」とか余裕でやれる位置だった。どう考えても、昨日今日あった人間が座るような場所ではない。恋人同士とか親子とかのそれだ。芽以子はやむを得ず、ふかふかの金縁椅子ギリギリに体を寄せる。

 芽以子は背中にうっすらと冷や汗をかきつつも、出された料理のあまりのおいしさに、ティアラの本性を忘れることができた。

「これ……本当に美味しいわね……なんていうか超高級フランス料理? さすがは王さまの食べる食事だわ」

「芽以子さまの国ではどんな食事をとられるのですか?」

「えーと……そおねぇ……日本人は何でも食べるけど……」

 とりあえず、外国人が毛嫌いしそうな定番メニューを並べてみる。

「腐った豆をご飯にかけたり、腐った豆の煮汁をスープにしたり」

 ティアラは眉をひそめる。

「……それはその……なんというか……おいしいんですの?」

「まぁ、わたしは嫌いじゃないけど。ぜひとも食べさせてあげたいわぁ」

 こうして話しているだけなら芽以子も楽しいし、ごく普通の女子とのやり取りなのだが。

 ティアラは、さらに芽以子のことを聞きたがるので、芽以子は身振り手振りを交えて教えた。

 芽以子はごく普通の十六歳で、高校一年生で、電車で女子校に通っていた。学校では、仲のいい友達数人とおしゃべりしたり、学食を食べたり、芽以子は部活動はやっていなかったから、放課後はだらだらと教室でしゃべっていたり。

 テスト期間になるとみんなで勉強会もした。ローテーションで友達の家に泊まり込んだりした。そろそろ夏休みなので、みんなで海にいって民宿に泊まるという旅行の計画も立てていた。そういう生活を芽以子はけっこう気に入っていた。

 それが突然、目が覚めると真っ白な空間が広がっていて、いきなり魔王なる怪物の目の前に放り出された。

 魔王に話が至ると、楽しそうだったティアラの顔にさっと影が入る。

 デザートを食べ終えて、侍女が食後の紅茶を入れるのを見ながら芽以子はいった。

「あのさ……この際だからはっきりいうけど……。あんな化け物、ただの人間がどうこうできるとは思えない」

「…………」

 ティアラはうつむいたまま何もいわない。

「わたしの世界のありとあらゆる最新鋭兵器をこっちに召還でもすればまだやりようがあるかもしれないけど。なんでわたしなの? いま話したように、わたしはごく普通の一般人なのよ? しかも、別に武道をやってきたわけでもない。体育の選択教科で柔道をやったくらいよ。ちなみに剣道はお面が臭そうだったからイヤだったわけ」

 こんなファンタジーな状況に陥るのなら、せめて剣道を選んでおけばよかったと頭の片隅で考えるが後の祭りだった。

「それこそ、わたしなんかより、どっかの大統領を召還でもしてネゴったほうが百倍マシじゃない。なのにどうしてわたしなの?」

「それは……」

 ティアラは、琥珀色にたゆたむティーカップに視線を落とした。

「……芽以子さまがどうしてこの世界に召還されたのか。実はわたくしにも分からないんです」

「はい?」

「ですが召還の秘術は、魔王に対抗しうる唯一の人間を的確に選び出すと伝えられています。芽以子さまが召還された以上、芽以子さまこそがこの世界を唯一救える勇者なのです」

「……だって、ふつー勇者サマって男でしょう?」

「ええまぁ、ふつうは……」

「…………」

「…………」

 少し気まずい沈黙が降りる。芽以子は紅茶を一口すすった。ペットボトルの紅茶などとは比べるべくもない芳香が、口の中いっぱいに広がる。

「アナタ」

 じろり、と芽以子がティアラを見た。

「その召還の秘術ってやつ、失敗したんじゃない?」

「そ、そんなことはありません!」

 ティアラはガバッと立ち上がると、大げさなジェスチャーとともに必死に弁明を始める。

「それは確かに、最初は、自分の身を削ってなんで無骨なヤロウなんて召還しないといけないんだと思いつつ術式を始めましたが! いやいくらわたくしでも、この一大事にそんな私事は持ち込めませんから、これでもセントクリスファー王家としての責務があり、我が国は小さいながらも召還の秘術を扱える唯一の王家として世界の期待を一新に浴びているのであり、どおせなら異世界の可愛い女の子が来たらいいのに、なんて願っていたりなどはまったくもって一切がっさい──」

「アナタのその気構えが、その秘術とやらに悪影響を及ぼしたんじゃない?」

「………………!」

 ティアラは二、三歩後じさる。

「い、いやですヮ芽以子さま。伝説の秘術が、そんな些細なことで影響を受けるわけないですヮ」

「じゃあなんで声が裏返ってるのよ」

 やる気ないツッコミを入れると、芽以子はため息をこぼす。

 ティアラは自分のつま先をみつめ、手のひらを握りプルプル震えている。反論の言葉を頭の中で検索しているようだ。

 まぁなんにしても──芽以子は頭の中でつぶやく。

 ティアラの失敗であろうとなかろうと、わたしがこの世界に必要だってのは確定事項なんでしょ? アナタがそう仕向けてるんだからね。

 芽以子がいった。

「まぁいいわ。これも運命ってヤツなんでしょ」

 その台詞を聞くや否や、まるで懺悔(ざんげ)を許してもらった咎人(とがにん)のように、ティアラは顔をパアァっと明るくした。芽以子が続ける。

「とりあえず、いろいろ教えてよ。この世界のことや魔王のことについて」

「はい! 分かりました!」

 ティアラは満面笑顔になると、ふたたび芽以子の横に着席した。さきほど以上に寄り添って、いまや腕と腕がぴったりくっついている。

(これさえなければいいコなんだけどなぁ……)

 芽以子は口の端を少し引きつらせると、あからさまに、金の椅子ごと移動して距離をとる。ティアラは口先をとがらせながらも説明を始めた。

「それでは、この世界の成り立ちからお話しましょうか──」

 まずティアラたちはこの世界──芽以子から見たら異世界──を『ニカ』と呼んでいた。魔法を操る世界だけあり、自分たちの世界とはまた別の世界が存在することは認知しているようだが、芽以子たちの世界のことは何一つ知らないようだ。

 この異世界──ニカには、太古の昔から二つの知的生命体が存在している。ひとつは人類で、もう一つは魔族。この二種族は終わることもない争いを繰り返してきた。とにかく、魔族が人類を根絶やしにしようと目論んでいるという。昔から、理由もなく人を襲ってくるそうだ。

 知的生命体といっても人語が通じるのはごく一部の高位魔族だけで、それ以外は獣となんら変わらない。日本に例えるなら、人里に降りてくる熊のようなものだろうか? しかしその例えで理解を進めるなら、山中の熊は、立派になると人語を解するという寸法だ。やはり想像の域を超えている。

 とにかく、人類と魔族は終わる果てのない抗争を繰り返してきた。人類は「魔族側がいきなり襲いかかってくる」といっているが、魔族側は魔族側で「人類が悪い」と考えているのだろう。同じ人類でさえ、肌の違いや思想の違いだけで尽きることのない戦争をしているのだから、姿形があそこまで違う──平たくいえば化け物と相対したら戦って生を勝ち取るしかないのかもしれない。

 しかし魔族の戦闘能力は圧倒的だった。彼らは、数こそ人類よりも少ないが、個体の戦闘能力は人類を軽く凌駕している。その最たる理由が魔術だった。

 魔族は、指先から炎も出せれば風も作れる。人類が剣や槍で突進していくだけなのに対し、魔族は指先一つで炎の竜巻を作り、突撃隊を殲滅できる。

「……って、ちょっと待ってよ」

 そこまで話を聞いた芽以子は眉をひそめた。

「ええと……アガレットだっけ? 彼女は炎の塊を出してたわよ? 彼女も魔族なわけ?」

「いいえ。アガレットはもちろん人間で、そして魔導士です」

 魔族の絶大な力の前に、人類は絶滅の危機に瀕していた。そして、窮地に追いやられた人類が(わら)にもすがる思いで編み出したのが『魔導術』だった。

 芽以子がいった。

「つまり、魔族の力をパクッたと?」

「ええまぁ、ぶっちゃけてしまえば。ちなみに、魔族が使う魔術は『純魔術』、人類が使う魔術は『魔導術』と区別したりもしますが。意味はそのまま、魔を導く術という意味です。ちょうど千年前、救国の大魔導士、エイブラハムという人物がいまして、彼が魔導術の生みの親といわれています。そしてわたくしたち王族の始祖とも」

「魔族との戦いに勝利して王さまになったわけ?」

「いえ、王政を敷いたのは彼の子孫たちでして。ちなみに、わたくしたち王族とは、この国、セントクリスファーだけではなく、全世界の王族国家の始祖という意味です」

「へぇ……」

 ずいぶんと絶倫(ぜつりん)だったのね、と喉元まで出かかったが、いささか卑猥(ひわい)だったので芽以子はその台詞を飲み込んだ。

「魔導術は、エイブラハムさまの血を受け継ぐ王族にしか扱えないのです」

「ふうん……ということは、アガレットは王族の一人なわけ?」

「はい、お恥ずかしながら……セントクリスファー王家の遠縁に当たります」

「そんな人を牢屋に入れてていいの?」

「ええ、構いません。あの直情おバカは、少しくらい頭を冷やさせた方がいいんです」

 直情で周りが見えなくなるのはアナタも同じでしょう? と芽以子は心中で突っ込んだ。

 ティアラが続ける。

「アガレットは、あれでもいちおう大魔導士の称号を拝命しているので、わたくしの一存ではなかなか処遇を決められないんです。現実的には投獄が関の山ですわ」

「彼女ってそんなに偉い人間なの?」

「政治的な発言権はそれほどでもありませんが、希少な人間ではあります」

 この異世界(ニカ)には、各国の王族を始めとする為政者たちが作る国際機関・王族連合──略して王連が存在する。地球でいうところの国際連合のようなものだが、その成り立ちと目的は明らかに違っていて、王連最大の目的は『平和維持』ではなく『打倒魔族』だ。だから地球の国連より好戦色が強い。

 その王連が直轄する組織の一つに国際魔導術機構(IMO)という組織があり、ここが魔導術に関するさまざまな規則や仕様(プロトコル)を取り決めている。IMOは、その気になれば武力行使でき、王連の最重要部門であり権威の依り代でもある。

 アガレットは、このIMOが定める魔導士ランクの最高位『大魔導士』を拝命している。大魔導士……つまり魔導術の始祖エイブラハムと同格という意味だ。

「それってめっさスゴイってことじゃないの?」

「ええ……まぁ……。ここ一二〇年で、大魔導士の拝命を受けたのは彼女だけなんです。だからこそやっかいというか……」

 異世界(ニカ)にどのくらいの人間がいるのかは知らないが、現世でさえただ一人、しかも歴史を一二〇年をもさかのぼらねば当該者なしともなれば、稀代の大天才であることは間違いない。そんな、人間国宝ならぬ人間兵器に命を狙われてよく生きていられたなと芽以子は身震いした。

 ティアラがいった。

「話を戻しますと、我々人類は魔導術を手に入れてようやく魔族と対抗しうる力を持ちました。そして千年前、大魔導士エイブラハムさまが勇者さまとともに魔王を封印することに成功したのです」

「……その大魔導士って人がやっつけたわけじゃないんだ?」

「ええ。魔導術は所詮魔族の力。格下の魔族たちになら通じますが、魔王ともなればそうはいかなかったのでしょう。エイブラハムさまといえども、勇者さまの力なくしては魔王を倒すことかなわなかったのです」

「で、その当時の勇者さまってのは、どうやって魔王を倒したのよ?」

「……それが……」

 芽以子の問いかけに、ティアラは顔を曇らせる。

「だから、どうやって魔王を倒したの?」

「……えっと……」

 ティアラは明らかに困惑していた。その反応が理解できず、芽以子は首をかしげる。

「どうしたってのよ?」

「……その……わたくし、てっきり芽以子さまがご存じなものとばかり……」

「……はい?」

 芽以子が素っ頓狂な声を上げた。

「ご存知って、こういう場合、何かすごい伝説の魔法とかいにしえの武器とかあって、それを勇者さまに授けるとか修行するとかがセオリーでしょう? キビシイ修行とかイヤだからできればサクッと授けてほしいケド」

「す、すみません。わたくしたちの王家にいい伝えられているのは召還の秘術だけですので、そういったことは……ちょっと……」

「はぁ!? 倒し方も知らないまま勇者サマ召還して、いったいどんだけ人任せなのよ!?」

 芽以子は円卓をバシンと叩く。さも高級感漂うティーカップがガチャリとはねた。

 芽以子が続ける。

「エイブラハムという人が何かいい残してないの?」

 ティアラは、非常にいいづらそうな顔をする。芽以子が無言で促すと、ティアラはあきらめたかのようにぽつりといった。

「勇者さまもエイブラハムさまも、魔王を倒してからの行方は分からないんです……」

「え? だってあなたたち、エイブラハムの子孫なんでしょ?」

「エイブラハムさまは、旅立たれる前に子を成しておりまして……」

 芽以子は絶句する。

 魔王を倒すもその後に帰って来ないということは、つまりは相打ちしたということだろう。あの男の「ラノベ終盤でラスボスと相打ち、というシナリオはよくある構成ですので」という台詞が頭をよぎる。

 あたかも自分の行く末を予言されたかのようだった。芽以子は青ざめながらいった。 

「さ、さっきもいったけど、魔王だなんてあんな怪物、ただの人が倒すなんて絶対に無理よ。何か特殊な方法とか裏技とか伝説とかがなくちゃ、カタナ構えて特攻したって、刃を交える前に足裏で潰されるわ!」

 あの恐怖を思い出し、背筋がますます冷たくなる。いくら虚構の中での出来事だとしても、当事者たる芽以子が味わう感覚はリアルとなんら変わらないのだから、二度と会いたくない相手ダントツだ。

 かつての会いたくないランキング・ナンバーワン(芽以子調べ)であった古典の皆川など足元にも及ばない。かの教諭が発する体臭がいまでは懐かしく思えるほどだ。

「芽以子さま、数日前に魔王と一戦交えたんですよね」

「交えたというか……それこそ、アリが象に戦いを挑むようなものだったわ」

「それほどまでに……」

「っていうかなんで、魔王と戦ったって知ってるわけ?」

「魔王が復活を始めた彼の地から、強烈な魔力波を感知しまして。それはもちろん、わたくしたち王族にしか感じられない波動なのですが、魔力に敏感な一般市民もいますから、そういう人は気分が悪くなったり倒れたり、お年寄りや子供などは、死に至るケースすらあります」

「アガレットが、わたしが魔王と戦ったことに、とても驚いていたようだけど?」

「それはもちろん、魔王が交戦しただけで、世界中に悪影響が及ぶほどですから、この事実はトップシークレットです。王連でも中枢にいる人間のみが知るだけですし、民もまだ、魔王が交戦できるほど復活していることを知りません。芽以子さまも、どうか、このことはご内密に……」

 王連は、魔王が戦闘行為に至る前に再び封じる策を発表しているという。復活はまだ完全に遂げられておらず、そのため満足に行動すらできないはずの魔王が、その絶大な攻撃力を行使したことを世界中の人間が知ったらパニックや暴動になること必至だからという理由による。

 例えるなら、核兵器がどこぞで使われたのをひた隠しにしたいようなものか、と芽以子は理解する。その秘匿性には強い反感を持つが、解決策もないのに批判したところでいまの芽以子には為す術がない。

 だから、魔王と交戦したという芽以子の言葉はアガレットを思いとどまらせるに十分たる効力を発揮した。ただの賊がそんなことを知るはずがないし、もし知っていたとしたら、それこそ生け捕りにして背後関係を洗いざらい調べなければならなくなる。

「芽以子さまはいったいどうして魔王と対峙されたのです? まだ召喚前の話ですよね?」

「あー……それはその……いろいろありまして。なんというか、えーと、例えるならこの世界のカミサマみたいなヒトとのやりとりで行きがかり上というか」

「……えっ?」

 ティアラは一瞬ぽかんとした顔になると、パァっと明るい笑顔が広がる。何かを悟ったかのような、どん底から希望が見えたかのような笑顔だった。

 そして芽以子の両腕をガシッとつかんでいった。

「それですわ!」

「……は?」

「芽以子さまは、この世界の神──ニカ・ユーリファさまと交信できるのですね!?」

「交信……というか、まぁそういうことになるのかしら?」

「すばらしいです!」

 ティアラは、ふくよかな胸の前に両手を組んで、祈るように天を仰いだ。

 夜空には、星の砂が溢れている。

「それこそが、それこそが勇者さまとしてこの地にご光臨された理由ですわ!」

「どういうことよ?」

「この世界のどれほど高位な巫女ですら、ユーリファさまと直接交信をできる能力など持ち合わせておりません!」

 まぁ、世界中の清らかな巫女たちが、あんな変態作者と交信なんぞした日には卒倒するだろう──と芽以子は内心ため息をつく。(失礼な)

「きっと芽以子さまは、ユーリファさまのお力をお借りして魔王を倒すことができるんです!」

「……え……ええ……?」

 芽以子の経験上、自分が交信できるカミサマとやらは、邪魔こそすれ手助けしてくれるなど万に一つの可能性もないと思うし、その判断は賢明だった。

「ほんと、芽以子さまと出会えて本当によかった! もう大丈夫! この世界は救われます!」

 感極まったティアラは抱きついて来た。

 暗澹(あんたん)たる閉塞感の中でついに見つけた希望に喜び震えるティアラに、刃のように残酷な事実を告げることが芽以子にはできず「ああー……あの……そのね……」と言葉を詰まらせる。

 自分の胸の中で、ティアラがうっすらと涙をにじませていることに芽以子は気づいた。

 いままで、この小さく華奢な体で、全世界の期待を一身にあびていたのだろう。何しろ、人類滅亡を阻止できる唯一の鍵を探し出せるのは、たった一人、この少女しかいなかったのだから。

 それがいざ呼び寄せてみれば「魔王倒す方法なんて知らないわよ」などと突き放され、なんの能力も持ち合わせていなかったとなれば、末期癌を告知されるかのごとくショックだったかもしれない。

 いくら無理強いされているとはいえ、これまでの言動がいかにティアラを傷つけていたのかと思うと、芽以子の胸は痛くなった。そもそも、芽以子がこのような状況に陥っているのは彼女のせいではないのだから。

「芽以子さま……本当によかった……本当に……」

 ひっしと抱きつくティアラは、迷子になった末にようやく母親に会えた子供のようだった。かほそい肩が小さく震えている。芽以子は子供をあやすように、彼女のつややかな金髪をゆっくりと撫でる。

「……芽以子さま……ありがとうございます……ありがとう………」

 嗚咽混じりのつぶやきは、途絶えることなく連綿と続く。

「……ほんとうに……嬉しいです……ありがとうございます……すきです……」

 静かに泣いてるティアラの背中を、芽以子はぽんぽんと叩いた。

「……芽以子さま……ありがとうございます……好きです……ほんとうに……」

 抱きつくティアラの腕にいささか力がこもった気がした。

「……どこまでもついていきます……ほんとです……ひとめぼれです……あいしてます……」

 彼女の嗚咽ともいえるつぶやきは聞き流していたはずだったが、ふと耳の中で違和感を覚えた。

「……芽以子さまの長くてしっとりとした黒髪……透き通るような柔肌……大きくてキリリとした黒い瞳……とにかくその異国情緒たっぷりの出で立ちが……もぅなんともたまりません……」

「…………」

 最初の抱擁とは、趣旨がおかしい明らかに。

 気づいたときにはすでに遅かったが。

「……わたくしは……わたくしはもぅ……」

 嗚咽だったはずのそれは、いつしか荒々しい息づかいに変容している。

「わたくしはもぅ!」

「ちょっティアラ!?」

 二人は金縁の椅子から転げ落ちる。

「あんたそのレズっ気いい加減にしなさいよ!? 人がちょっと甘い顔したらつけあがって!」

 芽以子はティアラの体を思いっきり突き飛ばした──と思ったのに今回も手足がまったく動かない。

「魔法!?」

 両手両足が、見えない縄で縛られているようだった。それどころか、肩や腰も満足に動かせない。冷たい大理石の床に四肢を貼り付けられたかのような姿勢になった。

「ちょ……ちょっと誰か!? ちょっと!?」

 気づけば、周囲に控えていた侍女たちはどこにもいない。晩餐会ホールを見下ろせる窓は、いつの間にか硬く閉じられている。

「どんだけ組織ぐるみだ!?」

 まったくもってぜんぜん気づかなかったが、ティアラ付きの侍女たちは、彼女の息がかかっているどころかもはや一心同体で動けるようだ。主君がいわずとも自ずと行動を起こせるのが優れた家臣である、などと流行りものの時代劇風メロドラマで見たような気がする。

「ティアラ、いい加減にしなさいよ!? ヘンなことしたらわたし協力しないわよ!?」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 いかん。完全に別世界に行かれてらっしゃる。

 芽以子が神々と交信できると知り、不安で渦巻いていた胸中が一気に解放された反動なのだろう。もはやティアラに理性は存在していなかった。

「芽以子さま! 愛しています!」

「いいいやあぁぁぁ! ほんと誰か助けてえぇぇぇ!」

 ゴスッ!

 芽以子の頭上で鈍い音が響く。ティアラがばったり倒れた。

 上を見ると、アガレットがピコピコハンマー(?)片手にため息をついていた。

「……あ、あれ? あなたどうして……」

「自分の魔導術を持ってすれば、脱獄など造作もないことです」

「あ、そう……」

 ティアラがことあるたびに物騒な発言をしていたのは、つまりはアガレットという女性は殺しても死なないということなのだろう。脱獄して悪びれることもなく飄々(ひょうひょう)としているあたり、この国では、彼女を裁ける人間はいないらしい。

「自分を拘束するための魔導地下牢やらトラップやらは無駄だと、殿下には再三にわたりいっているのですが。わざわざ私財を投入してまで」

「税金でないだけマシでしょうよ……」

 芽以子はいささかうんざりした様子で立ち上がる。手足を見ると、蜘蛛の糸のように細いワイヤーが絡みついている。ほとんど透明なので慌てているときには見えなかった。おそらく、これで手足の自由を拘束していたのだろう。これも何かの魔導術だろうか?

「とにかく助かったわ。ありがとう」

「いえ……別に」

 アガレットは素っ気なく返答すると、気絶したティアラを抱きかかえる。まさにお姫さま抱っこね……と芽以子は思った。

 こうして落ち着いてアガレットと向き合うのはこれが初めてだったが、ずいぶんと物静かな印象だ。

「あなたたち、仲悪いわけ?」

「何をいっておられるのです? 自分の殿下への忠誠心は、世界中で誰よりも強いものです」

「その割には、あっさり殴り倒してるけど……」

「殿下をいさめるのも家臣の仕事です」

「まぁねぇ……けど、ティアラにはずいぶんと毛嫌いされているようね?」

 その台詞をいったとたん、アガレットの右顔面がピキィと引きつった。

「く……くちうるさい家臣は、つねに煙たがられるモノです。それでもいつの日か、殿下も認めてくださる日がくると自分は信じて疑わず──!」

「あー、はいはい、わかったわかった」

 手をヒラヒラさせて、熱くなり始めたアガレットをたしなめる。どうも、ティアラと同じ匂いを感じるが、それに言及しても仕方がないので芽以子はやめにした。

「っていうかヘンタイしか出てこないの? この小説は……」

 面倒な色恋沙汰には関わりたくない。まして同性とあってはなおさらだ。

「それで、アガレット。これからどうするわけ?」 

 本来はティアラに投げかけようと思っていた質問だったが、彼女は昏倒しっぱなしなのでアガレットに聞いた。

「まずは、王連国際会議への出席です。場所は、西の大陸最大の都・ウルパック。ここから船で一週間といったところです」

 これから剣や鎧をさずかって、野原に繰り出し雑魚モンスターでも倒すのかと思っていた芽以子は肩を落とした。

「またお偉いさんとの面会? そんな悠長なことしてていいわけ?」

「そうはいっても、各国足並み揃えてあなたのサポートをしなければ、魔王の討伐など夢のまた夢です」

「まぁ助けてくれるのはありがたいけど……」

 ヒト・モノ・カネを、とくに資金を調達する上で、芽以子がこの世界の救世主であると宣言する舞台は何よりも重要だという。たしかに、カネを出させて挨拶のひとつもないようでは、いかに勇者とはいえ印象は悪いだろう。

「まぁ……モンスター倒してゴールドが貯まるってわけにはいかないか」

 そもそも、体を張るのは芽以子なのだ。本物のモンスターを倒すほうが大変だろう。しかも、まさに文字通り必死に稼いだゴールドで装備を整えたりなどしていてはまるっきり割に合わない。コンビニでバイトしたほうがよっぽど儲かる。

「なお、これ以降は自分が芽以子さまの護衛に当たります。以後お見知りおきを」

 命を狙ってきた人間が護衛に回るなど正直うんざりではあるが、アガレットが世界最強の大魔導士だと聞いた時点で予想はついていた。レベル99の魔法使いがレベル1の勇者を守ってくれるようなものだろう。初回から超強力な呪文を連発してくれれば、旅路はラクになるはずだ。

「まぁそういうお助けキャラって、途中で死んじゃうか裏切るかなんだけどね……」

「何か?」

「こっちのこと」

「ちなみにわたくしもお供しますので」

 いつの間にか目覚めていたティアラが話に割って入る。アガレットは驚愕した顔付きで、自分がいだく絶世の美少女にいった。

「な、何をいっておられるのですか!?」

 ティアラは手足をジタバタさせてアガレットの腕から逃れると、ドレスを正しながらいった。

「わたくし自ら出向いたほうが、何かとやりやすいでしょ」

「このご時世で、外界に出られるのはキケンです!」

「わたし、そのキケンな外界にほおりだされるわけ?」

「殿下! 国際会議といえど、いまや各国は中堅大使を派遣する程度ですよ!? 殿下がわざわざ──」

 芽以子の抗議はまったくのスルーで、アガレットは話を進める。相変わらず人の話を聞かないわね、と芽以子はこれ見よがしに文句をいったがやはり聞いていない。

「だからこそ、よ。あのまとまりのない雑談会を掌握するいい機会ですわ」

 ……あ、やっぱりそういう会議なわけね、と芽以子は心の中で落胆する。どこの世界でも同じようなものだった。

「ですが、魔王が活性化したことにより外界にはますます魔物が跋扈(ばっこ)しています。キケンです!」

「誰に向かっていっているんです?」

 ティアラは、キケンだと主張するアガレットの言葉を一笑に付して鼻を鳴らす。その妖艶(ようえん)がかった不敵な笑みは、十五歳の少女のものだとはとても思えない。

「なんならいまここで証明してあげましょうか? アガレット、あなたには、それこそ教えて差し上げたいことことがいっぱい、それはもぅめいいっっっぱいありますし」

「……くっ」

 気圧されたアガレットは二、三歩後じさる。それを見ていた芽以子はぽかんと口をあけた。

「何よ? ティアラも相当強いってわけ?」

「イヤですわ、芽以子さま。強いだなんてそんな無粋な。王族のたしなみとして、ある程度の護身術は身につけざるを得ませんから。その程度ですわ」

「『ある程度の護身術』で、世界最強の魔法使いがひるむとは思えないんだけど……」

「元来──」

 とぼけるティアラの代わりに、アガレットが説明する。

「──元来、魔導士とは一体多数の広範囲攻撃を得手とします。その反面、近接戦闘は苦手なのです」

 例えるならミサイルのようなものだろう。遠方の敵を一気に殲滅する戦闘では超強力だが、射出場付近の敵をミサイルで攻撃することはできない。

 だから礼拝堂での戦闘で、アガレットは照準を外しまくっていたのかと芽以子は納得した。小さな的に、絞り込んだエネルギーをピンポイントでヒットさせることは向かないらしい。逆に、アガレットだからこそ小規模高出力の呪文を発動できるともいえる。

「アガレットはとくに、体力ないですしね」

 うふふ……と不気味な笑顔を作るティアラ。アガレットのほうがよっぽど屈強な戦士に見えるのだが。

「アガレット。セントクリスファー直系であるわたくしのドタマをよくもどついてくれましたね。芽以子さまのことといい、あなたはどうも頭より先に手足が動くようですから、本当に、きっつい教育が必要ですよね?」

 ティアラの指先が、アガレットのアゴをすっとなでる。

「いやあの殿下!?」

 アガレットはそれだけで、石のように硬直した──いや、硬直させられている?

 よくよく見ると、いつのまにか、アガレットは極細ワイヤーのようなものでグルグル巻きにされていた。まるでミノムシのように。

 芽以子は、縛り上げられたアガレットに近寄るとまじまじと見た。半透明のワイヤーで、ギチギチに縛っている。制服の上からとはいえけっこう痛そうだ。

 さきほど芽以子の手足が動かなかったのは、この半透明ワイヤーで縛られていたからなのだろう。

「何コレ? ティアラの魔法なの?」

「魔導術も混じってますが。これはただの物理攻撃ですわ」

 ティアラは誇らしげに胸を反らす。

「わたくし、縛りが得意なんですの」

「あー……はいはい。もう勝手にしてちょうだい」

 こんな変態ふたりと旅をして大丈夫なのだろうか? 芽以子は頭が痛くなる。しかもふたりとも、芽以子など足元にも及ばないほど腕っ節が強い。芽以子のいうことを聞き入れるとはとうてい思えなかった。いちおう勇者さまなのだが。

 とくにティアラ。世界最強の魔導士を近接戦闘で軽く凌ぐというのなら、彼女こそが最強である。もはや彼女のレズっ気は誰にも止められない。身の安全は飛躍的に上がるが、貞操は危機的状況に陥る。

 事実、過去に二度もあっさり組み敷かれているのだから。

「いっときますけど」

 芽以子はぐいっとティアラに詰め寄ると、人差し指を鼻先に突きつける。が、芽以子の凄みはまったくの逆効果だったようで、自ら近づいてきた芽以子にティアラは頬をポッと染めていた。

「今度、理性を吹っ飛ばしてあんなマネをしでかしたら、わたし、本気であなたのこと嫌いになるから」

「……え? そ、そんな……」

「カンペキ無視するから。っていうか、旅の仲間からティアラ外してアガレットとふたりっきりで旅するから」

「そんな!? 芽以子さまはアガレットのほうがお好みですか!?」

「ぐえぇ……」

 八つ当たりか、アガレットを締め付けるワイヤーがきつくなったようだ。

「そういう話をしてるんじゃない!」

「だってアガレットとふたりきりがイイなんて……」

「誰もイイだなんていってないでしょ!? あんたがわたしを襲わなければいいだけの話よ!」

「その……あまり自信がありません……」

「最初からあきらめてて自信も何もあるか!」

 とっぷりふけつつある夜の中で、ふたりの押し問答はえんえんと続く。

 キリキリに締め上げられ続け白目をむくアガレットは、図らずも強烈な懲罰を受けたわけだが、ふたりは一顧だにしなかった。