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メタっ娘

chapter1-3 勝敗のゆくえは……

 ──そして。

 再び目覚めたとき、そこは白い空間だった。

「…………っ!」

 芽以子は上体を起こすと、全身をくまなくチェックする。割れた足の爪も、ボロボロになった衣服も、傷だらけの肌も、掻き乱された黒髪も、真っ黒にすすけた頬も、何もかもが消え失せて、元のパジャマ姿に戻っていた。

 あれだけの激痛が、それこそ、夢の中の出来事だったかのように消えている。

「……あ……」

 芽以子の口元が、ふっと釣り上がったかと思うと、瞬く間に爆笑に変わる。

「あははははははは──!」

 狂ったかのように、ひとりで数分間も笑い続けた。

「どうよ! この変態ナレーター! あなたの三文芝居なんかに騙されたりしないわよ!」

 芽以子はガバッと立ち上がり、居丈高に胸をそらし、あさっての方向に

「ナニ冷静ぶってんのよ! あなたの負けよ! バカ作者!」

 叫び、勝ち誇ったかお

「泣きわめいて土下座するとでも思ったの!? あなたノリだけで書いてるでしょう!? だからド素人のわたしにも、こんなあっさり卓袱台ひっくり返されるのよ!」

 えー……芽以子は誰もいない白い空間でひとり、気がおかしくなったかのよ

「冒頭から、ヒ弱なまんまの勇者がラスボスと対峙するなんて小説、成立するわけないでしょう!?」

 …………。

「じゃあいったいどうするというの? 勇者サマはあっさり倒れて死んじゃうわけ? そんなことできるわけないよねぇ? あなたは小説を書きたがっているんだから!」

 …………。

「あなたは確かに、場面を自由に作り替えられる。小説を操作できる。この中では、あなたはカミサマに等しい──ように見えるだけ!」

 …………。

「あなたには義務があるのよ。絶対に違えてはならない義務が!」

 …………。

「あなたは、この小説を面白くしなくてはならない! それが義務! であるならば、あなたの小説操作は、いっけんなんでもできるように見えて、実は著しく制限がある。そう──わたしを絶対に殺せないようにね!」

 …………あー。勝ち誇っているところなんですが。そもそもさっきの場面はですね、別にアレでラノベをどうこうしようというものではなく、ちょっとした余興でしてね、もともと、きりのいいところでこの場面に戻す予定だったんですが?

「はいはい負け惜しみー♪ あなたの悔しがる顔が見られなくて残念ですワ〜」

 悔しがるもナニも、だから、ちょっとした茶目っ気、かるいジャブ、些細なスパイスなんですよ。ラノベ進行には何も影響はないし、芽以子さんに現実を認識してもらえれば、適当なシーンを作り上げてこっちに戻す予定だったんですってば、もともと。

「ふふん、あとからならなんとでもいえるわ」

 あーもー。そんな勝ち誇った顔したってダメですよ? このやり取りは、ぼくの構成の範囲内です。

「じゃあ『ヒロインは死なない法則』がわたしにバレる、というのも設定の範囲内なのかしらー?」

 …………。

「いやぁ、これじゃあのちのち困るよねー? だってわたし、死なないんだもの。不死身なんだもの。どんなに大怪我してもほらこの通り、やばくなったら一瞬で完治しちゃうんだもの。なにしろカミサマの祝福を受けたヒロインですから!」

 …………。

「あ、もちろん皮肉でいってるのよ勘違いしないでね? でも困るよねぇアナタ。だってヒロイン、自分が死なないって知ってるんだもの。どんなに小説をシリアスに展開したって、安心しきったヒロインじゃあ、緊迫感も何もあったもんじゃないわよねー。一生懸命書いたって全部台無し。ヒロインやる気ゼロ。あはは〜」

 …………。

「さぁ──これで分かったでしょう! わたしを解放しなさい! これ以上小説をダラダラ続けたって、面白くもなんともないわ!」

 ……まぁ、たしかに、そのような理解をするに至るってのはちょっと予想外でしたが。

「ちょっと予想外? なにいってんの、とんでもない大番狂わせでしょう!? 安心しきってやる気ゼロのヒロインが繰り広げる冒険活劇なんて何が面白いのよ!」

 芽以子さん、あなたは大きな勘違いしてますよ。シ・ロ・ウ・トだからしょうがないことですが。その勘違いは、これからラノベに出演して頂くにあたり非常にキケンなので、親心でちゃんと教えてあげましょう。

「はぁ? 何いってんの? どうやったって、ヒロインに舞台裏ばれちゃったら小説の進めようがないでしょうが」

 芽以子さんは死なないわけではありません。やりようによっては死にますよ。

「ふん。ヒロインがいなくなってどうやって小説が進行するっていうのよ」

 ダブルヒロインという考え方があります。超有名ロールプレイングゲームでは、かつて、ゲーム序盤でヒロインがお亡くなりになりました。

「……は?」

 いやー、あれには泣いたなー(涙)

 ぼく、裏技とかで絶対エア○スは復活するんだと思って、隅から隅までプレイしたもんですよ。いやそんな裏技ないんですけどね。で、ヒロインお亡くなり後は、ヒロインの対抗馬と思われていたライバルキャラがヒロインを引き継いだ次第です。

 だから、構成次第ではいくらでも緊迫感を盛り上げることは可能です。

「……だ、だって、ヒロインなんてわたし以外いないじゃない」

 まぁ確かに、今回ダブルヒロインは考えていなかったんですけど、ぼくを誰だと思ってるんです? しかもまだ序盤も序盤。いくらでも書き換え可能です。

「……な」

 しかも最近は、ヒロインが何十人も登場するのが流行ですからねー。四八人とかいってみますか? 芽以子さん、四八分の一のヒロインです。ひとりぐらいお亡くなりになってもねぇ。盛り上がっていいかもです。

「…………」

 いやぁ、芽以子さん。「ヒロインは死なないことに気づいた」だなんてぼくにいうべきではなかったですねー。あ、いわなくても芽以子さんの気持ちは手に取るように分かるから無駄ですが(笑)

 ちなみに、ラノベ終盤でラスボスと相打ち、というシナリオはよくある構成ですので。ゆめゆめ忘れぬよう。

「…………」

 そ・れ・と。かりに、芽以子さんが天下無敵の不死身ヒロインだったとしても、『痛み』は十二分に表現可能ですから。さっきしっかり味わったでしょう? 痛かったでしょう?

死なない、というだけで、ラノベ進行上の芽以子さんの艱難辛苦(かんなんしんく)はいかにようにも演出可能です。

「……こ……この……」

 さっきまでの居丈高な調子とはいっぺん、芽以子は両方の拳をきつく握りしめると、かほそい肩をプルプル震わせて、怒りにわなないていた。ぷぷっ。

「この、サディスト!」

 はーい。なんとでもいってください。けっきょくのところ、芽以子さんはぼくに勝つなんてことできないんですよー。そんな無駄なあがきなんてしないで、大人しく、ぼくの構成通りにオモシロおかしく、そして愛らしく七転八倒してください。

「ぜっっったいイヤ!」

 そんな地団駄踏んでも無駄ですよー。ぼくは別に芽以子さんを説得しなくてもいいんですから。強制的にラノベを進行させちゃえばいいので。

「こ……このやろう……のらりくらりとヘリクツを……」

 そりゃあ物書きですから弁はいくらでも立ちますとも。褒め言葉として受け取っておきましょう。ふふふのふ。

「……絶対に! 叩きのめしてあげるから! 首を洗って待ってなさい!」

 葛木芽以子の怒髪天を衝く怒号は、白い空間いっぱいに広がったのだった。